情報の収集・発信ツールとして当たり前になったSNS。誰もが発信できて気軽にリアクションもできるツールだからこそ、真実ではない情報「フェイクニュース」も拡散されやすくなっています。
フェイクニュースが出回ると、日常生活に支障が出たり、企業活動・政治活動などに悪影響を及ぼしたりとリスクもあります。なぜフェイクニュースが拡散されるのか、どんな種類のフェイクニュースがあるのか、どんな対策が必要なのかを理解することが重要です。
本記事では、フェイクニュースの種類や拡散される理由、組織における対策、国内での事例をご紹介します。企業ブランディングや広報に関わる方は、特にフェイクニュースへの対策の実施にむけて参考にしてください。
フェイクニュースとは?
日本おけるフェイクニュースの実態
フェイクニュースが拡散される理由
フェイクニュースの種類
フェイクニュースに騙されない方法
組織におけるフェイクニュース対策
フェイクニュースの国内事例
まとめ|誤情報・偽情報のSNS拡散を未然に防ごう
フェイクニュースとは?
フェイクニュース(Fake news)とは、真実ではない情報が掲載された記事のことです。意図的または非意図的にニュースとして拡散され、社会に負の影響をもたらします。メディアが流すニュースをはじめ、ブログやSNSの投稿も当てはまります。
フェイクニュースは主に、誤情報(misinformation)、偽情報(disinformation)、悪情報(mal-information)の3種類に分類されます。
- 誤情報(misinformation):事実を誤って伝えるが悪意はない情報
undefined - 偽情報(disinformation):特定の目的のために悪意を持って作られ、拡散される虚偽の情報
undefined - 悪情報(mal-information):真実であっても悪意を持って使用される情報
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「真実ではない」ことが主観的な場合もあるため、フェイクニュースの定義はさまざまです。「悪情報」は真実の情報ではありますが、秘密を公表したり部分的に強調したりするなど情報の扱い方が正しくないため、フェイクニュースとされる場合もあります。
フェイクニュースは、SNSの普及により急速に拡散され、政治・経済・社会・企業活動など多方面に影響を及ぼすことがあります。広告収入目的のもの、プロパガンダ(思想誘導)、企業のイメージ操作、悪ふざけによるものなどがあり、誤解を招きやすい特性を持つため、情報の真偽を見極めるリテラシーが求められます。
日本おけるフェイクニュースの実態
日本においてフェイクニュースの流布は、インターネットやSNSの普及により増加しています。
2021年6月に「Innovation Nippon 2020」が発表したデータによると、2020年の一年間で2,600件以上のフェイクニュースが確認されています。このことにより、2人に1人以上がフェイクニュースに接触していたことも判明しました(総務省 2021年4月発表)。当時は新型コロナウイルス関連の情報や、アメリカ大統領選挙のトランプ氏の選挙不正に関する情報が広がっていました。
また、総務省が2020年3月に発表した調査結果によれば、見たことのあるフェイクニュースのジャンルは、芸能やスポーツ、社会・事件、生活・健康、災害に関する情報が多いとのことです。
▼見たことのあるフェイクニュースのジャンル
出典:「日本におけるフェイクニュースの実態等に関する調査研究 -ユーザのフェイクニュースに対する意識調査-」総務省(2020年)
このようにフェイクニュースが出回る中、多くの人が誤情報・偽情報であることに気づいていないことが分かっています。
拡散された偽・誤情報に対する人々の行動を調査した結果、偽・誤情報を正しいと思っていた人は年代別に見て4〜6割程度となり、多くの人が情報の誤りに気づいていないことが明らかになりました。(参考:「Innovation Nippon 2022」2023年5月)
正しい情報が見抜けない人の年齢差はほとんどなかったため、全世代を対象とした継続的な啓発活動や対策が必要になってくるでしょう。
フェイクニュースが拡散される理由
フェイクニュースが拡散されるようになった背景には、SNSの普及が挙げられるでしょう。SNSで個人が自由に投稿したり拡散したりできることで、よりフェイクニュースの拡散スピードが上がり、多くの人の目に止まりやすくなりました。
また、フェイクニュースのほうが真実よりも拡散されやすいことが分かっています。2018年に発表されたマサチューセッツ工科大学助教のソローシュ・ヴォソゥギ氏らによる研究結果によれば、真実が1,500人に届くにはフェイクニュースの約6倍の時間がかかり、フェイクニュースのほうが拡散される可能性も70%も高いとのことです。
フェイクニュースが拡散しやすいのは、人の特性が影響しています。目新しさがある投稿や「こんなことがあってはならない」などの怒りの感情をかきたてるような投稿は人を引き付けやすく、情報が拡散しやすいとされています。また、専門家が発信する情報よりも、友人など身近な人が発信する情報を信じやすいという傾向も、フェイクニュースの拡散を加速させているといえるでしょう。
参考:フェイクニュース拡散のしくみと私たちに求められるリテラシー
フェイクニュースの種類
フェイクニュースには、以下を目的としたものがあります。
1. 広告収入
フェイクニュースで読者を引きつけ、記事にあるWeb広告のクリックを誘発することで、広告収入を得ます。フェイクニュースは、極端な健康法や有名人の日常生活など、人々が興味を持ちやすい話題が利用されることが多いです。
真実性よりも閲覧数を優先するフェイクニュースであるため、人々に誤解やパニックを引き起こす可能性があります。
2. プロパガンダ(思想誘導)
プロパガンダ(思想誘導)を目的としたフェイクニュースもあります。公衆の意見を操作し、特定の政治的または社会的アジェンダを推進します。
例えば、選挙期間中に特定の候補者が不利になるような虚偽の情報を流布したり、対立国へのネガティブなイメージを植え付けるために偽情報を拡散したりするケースが挙げられます。
意図的に作成され、社会的分断を深めたり、特定のグループに対する偏見を煽ったりするようなフェイクニュースがプロパガンダです。
3. 企業のイメージ操作
企業のイメージ操作を目的としたフェイクニュースもあります。
例えば、競合他社の製品の安全性に問題があるといった虚偽の内容の記事作成や、自社製品の効果の誇張などです。消費者の購買行動に直接影響を与え、不正競争を生じさせる可能性があります。
このようなフェイクニュースは、報道倫理に反しています。偽情報を流したことが明らかになれば、企業ブランドに悪影響を及ぼすだけでなく、長期的に消費者の信頼を損なうでしょう。
4. 愉快犯
愉快犯によるフェイクニュースは、特定の目的を持たず、単に混乱や注目を集めることを楽しむために作成されます。
例えば、自治体宛てに爆破や殺害の予告をして、世間を騒がせます。ネット上での失言に対して、大量に批判のコメントをすることも愉快犯による犯罪行為です。
さらに、最近はフェイクニュースの作成において、ディープフェイクが使用されることがあり、虚偽かどうか見分けるのが難しくなっています。
ディープフェイクとは、最新の機械学習やソフトウェアを用いて、複数の画像や映像を組み合わせて、実際に起きていない出来事や行為を画像化・映像化したものです。人物の顔を入れ替えることも可能で、本物のように見えます。
2018年にアメリカのオバマ元大統領の偽動画がYouTubeに投稿されたのが、その一例です。トランプ元大統領について偽の発言をしています。
フェイクニュースに騙されない方法
一般消費者がフェイクニュースに騙されないようにするには、出回っている情報の「信頼性」を確認することが大事です。以下の点を確認してみてください。
1. 情報の発信元を確認する
情報の信頼性を評価する最初のステップは、発信元を確認することです。公式の機関、信頼できるメディア、または認知された専門家による情報かどうかを見極めましょう。不明瞭なソースや会社情報のないWebサイトからの情報は、扱わないことが無難です。
2. 一次ソースを確認する
発信元の確認の他、情報が本当に信頼できるかを知るためには、一次ソースへのアクセスが重要です。一次ソース(一次情報源)とは、情報を流用しているところではなく、初めてその情報を発信したところのことです。実際に体験した内容や調査したデータなどが発表されていることが多く、情報に信憑性があります。
情報が次々と流用されると、読んだ人の捉え方の違いなどから内容が変わってしまうことがあります。情報が正しいかどうかは一次ソースを探して確認しましょう。一次ソースが見つからない場合は、その情報の真実性を疑いましょう。
3. 情報の投稿・発信の時期を確認する
情報がいつ作成・公開されたかを確認することも重要です。時間が経っている情報の場合、更新情報があるかどうかを確認してください。法律や制度などは、現在の状況とは合わない可能性があります。また、特定の出来事に便乗して再度拡散される古いニュースにも警戒しましょう。
4. 複数の情報と比較する
異なるソースや他メディアからの情報と比較することで、偽・誤情報に惑わされる可能性が低くなるでしょう。インターネット上でセンセーショナルな情報を目にしたら、新聞・テレビなど複数のメディアが同じ事実を報じているかどうかを確認してください。
5. 情報発信者の目的や自身の認知バイアスに気づく
拡散されている情報の背景や意図、それが自分自身の意見や信念にどのように影響を与えるかを考えましょう。情報発信者が特定の反応や行動を促すために情報を操作している可能性があります。投稿者のプロフィールなどを確認して、何のために情報が拡散されているのかを考えることで、自分の認知バイアス(思い込み)に気づき、正当な視点を保てるでしょう。
組織におけるフェイクニュース対策
企業や組織においてフェイクニュースの影響を最小限にするには、どんな対策が必要でしょうか。ここでは、従業員の教育、情報の検証、そしてメディアの監視という3つの重要な対策をご紹介します。
1. 従業員のメディアリテラシーの向上
フェイクニュースの対策として、従業員自身のメディアリテラシーを向上させることが重要です。メディアリテラシーとは、情報を正しく読み取り活用するスキルのことです。従業員自身が日常的に接する情報の真偽を見極める能力を身につけることで、フェイクニュースに惑わされたり拡散してしまったりするリスクを減らすことができます。
具体的には、SNSマナー研修やメディアリテラシー研修など、従業員に対して定期的な教育プログラムを提供しましょう。情報の正確性を評価する方法、情報の出典を確認する技術、そして一次情報源へのアクセスの仕方を教え、組織全体のリテラシーを高めていきます。
2. ファクトチェックの実施
公開された情報や報道に対して、ファクトチェックを行う体制を整えましょう。特に、組織に関する情報や、組織が重要視する分野など、企業の意思決定に関わる情報を対象に行ってください。
ファクトチェックのプロセスには、専門家によるレビュー、信頼できる情報源との比較、一次情報源へのアクセスなどが含まれます。ファクトチェックを定着させることで、誤った情報に基づく意思決定を防ぎ、組織を維持することができます。
3. SNSやメディアの監視
自社の製品・サービスや組織に関するフェイクニュースの拡散を防ぐためには、SNSやメディアの監視が不可欠です。組織の評判管理や危機管理戦略としても機能します。
専用のツールやサービスを利用して、製品・サービスや社名に関連する言及をリアルタイムで追跡し、フェイクニュースや誤情報が拡散している兆候を早期に捉えましょう。また、不利益な情報が見つかった場合、迅速に正確な情報を提供するなどの対策を行うことで、損害を最小限に抑えることができます。
フェイクニュースの国内事例
具体的なフェイクニュースの事例を見てみましょう。
1. SNSで拡散されたデマ「トイレットペーパー騒動」
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、SNSではさまざまなフェイクニュースが飛び交いました。その中でも代表的なのが、2020年2月末に投稿された「トイレットペーパーが不足する」といったデマです。
実際にはデマの投稿自体が拡散されていたわけではなく、そのデマを否定する投稿が数多く拡散されました。そのシェア数は数十万件にも上り、かえってデマが多くの人の目に届くことになり、「事実ではないと分かってはいても、世間の人々は買い占めるに違いない、そうなれば自分が困ってしまう」と不安になった人々がトイレットペーパーを買い、結果的に一か月あまり品薄・品切れ状態となりました。
参考:トイレットペーパー騒動
2. 画像生成AIによる混乱「水害被害」
2022年に静岡県で発生した台風による水害被害に関して、画像生成AIで作成された画像がSNS上で出回り、混乱を生じたことがありました。よく見れば違和感のある画像でしたが、SNSで拡散されやすく、災害という状況で騙されてしまう人も多くいました。
生成AIの技術はさらに発展しており、フェイク画像やフェイク動画を見抜けないことも増えてきました。アメリカ大統領選挙や戦争をめぐる偽動画もSNS上で見かけるようになり、今後も増えると考えられます。
3. 誤った解釈の拡散「福島第一原発の処理水」
東京電力の福島第一原発が処理水を海洋放出したことについて、「汚染水が放出され、海水が二色になった」という内容の記事や画像が拡散されました。しかし、実際には海水の色は処理水を放出するまえから違っていました。
特に中国では処理水を「汚染水」と呼び、日本が処理水を海洋放出したことを批判する動画もSNS上で出回りました。
まとめ|誤情報・偽情報のSNS拡散を未然に防ごう
今回はフェイクニュースの種類、拡散される理由、対策、事例をご紹介しました。
企業にとってフェイクニュースである誤情報・偽情報が出回ることは大きなリスクとなります。未然に防ぐには、ファクトチェックやSNS・メディアの監視を行うことが重要です。
この記事の監修者:
馬見塚 堅 (Meltwater Japanエンタープライズソリューションディレクター)
2016年にMeltwater Japan株式会社入社。
外部データ活用に向けてマーケティング・企画・広報部向けのコンサルティングを7年で200社以上を担当。 現在は、大手企業や官公庁向けのソリューション企画に従事。インフルエンサーマーケティングや消費者インサイトに関するセミナー実績多数。
趣味:旅行、子育て情報収集、仮想通貨、サッカー観戦(川崎フロンターレの大ファンです)