2025年、SNSの世界はますます進化し、消費者行動に新たなトレンドが現れると予測されています。AR技術を活用したライブコマースや、ユーザー同士のコミュニティ形成が加速するなど、より直感的でインタラクティブな購買体験が主流になるでしょう。
また、SNSプラットフォームの特性に応じて、消費者の行動に変化が訪れると考えられます。特に、AIやAR、メタバースといった新技術がSNS上での購買体験を大きく変えると予想され、バーチャル試着機能の導入やAIアバターを活用したインフルエンサーによる新しいマーケティング手法が拡大する兆しがあります。さらに、ライブコマースが今後も加速するのか、それとも視聴者のエンゲージメントを維持するために新しい形式や体験設計が求められるのかは、注目すべきポイントです。
SNSの専門家たちはこれらの変化にどう対応し、どのように未来の消費者行動を見越して戦略を立てているのでしょうか。今回のインタビューでは、2025年に向けたSNS消費者行動の傾向やトレンドについて、業界の専門家3名に見解を伺いました。
ご協力いただいた専門家(五十音順)
・大野 俊太郎氏(株式会社ホットリンク執行役員/経営企画担当)
・田村 憲孝氏(株式会社ウェブタイガー代表取締役/AI・ソーシャルメディアコンサルタント)
・沼田 早紀子氏(株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 事業部長)
<トピック>
2025年にSNS上での消費者行動には、どのような新しいトレンドが現れると思いますか?
2025年はどのSNSプラットフォームが商品を買ったり体験したりする消費者行動に最も大きな影響を与えると考えますか? また、それはどのような特性や機能に基づくのでしょうか?
AI、ARやメタバースといった新技術がSNS購買体験をどう変化させると予想しますか?
SNSを活用したライブコマースは2025年以降も加速すると思われますか? それとも、視聴者のエンゲージメントを維持するために、新しい形式や体験設計が必要になると考えますか?
2025年のSNS消費者行動予測の概要
1. 2025年にSNS上での消費者行動には、どのような新しいトレンドが現れると思いますか?
大野氏:AIの進化により、コンテンツの爆発的な増加と、それを最適に届けるアルゴリズムの高度化が進みます。その結果、ユーザーは受動的に「最適な情報」を得られるようになりますが、一方でユーザーの「自分で選びたい」「自ら発見したい」という欲求も高まるでしょう。
この動きの中で、信頼できる情報を求める人々によるコミュニティの形成が活発になると予想されます。さらに、情報収集の手段としてAIが活用されることで、従来の「検索」で終わっていた行動が、「AIによる情報収集・要約→意思決定」へと進化するでしょう。
つまり、認知→興味→検索という消費者行動の流れに、「AIによる情報整理」という新たなフェーズが加わるため、AIが購買プロセスの一部として定着していくと考えられます。
田村氏:2025年には、AIを活用したショッピング体験がさらに一般化し、消費者は価格比較や商品提案(接客体験)にAIを活用する傾向が強まると予測されます。また、AR技術を取り入れた商品やサービスの需要も高まるでしょう。
さらに、消費者のインフルエンサーに対する信頼が低下しつつあり、専門家の意見や各企業の透明性が重視される傾向が強まると考えます。この流れは、消費者がより効率的で信頼性の高い購買体験を求める動きの一環といえます。
沼田氏:2025年のSNS消費者行動は、よりインタラクティブでパーソナライズされた体験へと進化すると考えています。SNS内でのコミュニティ形成がさらに進み、特定の興味関心を持つユーザー同士がつながり、フォロワーを多く抱えていても求心力の弱いタレント・インフルエンサーではなく、信頼できる相手が購買意思決定に影響を与える「ソーシャルコマース」の重要性が増していくでしょう。
その流れによって企業にはインフルエンサーだけでなく、一般ユーザー等を巻き込んだUGCの活用を強化し、ステークホルダーと共創するマーケティングを展開することが求められます。また、AR(拡張現実)が加速し、消費者がスマホを通じて商品をリアルに試すことができるような体験も加速していくでしょう。
2. 2025年はどのSNSプラットフォームが商品を買ったり体験したりする消費者行動に最も大きな影響を与えると考えますか? また、それはどのような特性や機能に基づくのでしょうか?
大野氏:情報の個別最適化が進んでいく潮流であるため、特定のプラットフォームがマスに影響を与えるような最大勢力となるのではなく、消費者の興味関心に基づきプラットフォームが細分化していくと考えられます。ただし、全体傾向として縦型ショート動画のトレンドは変わらず、全プラットフォームで縦型ショート動画の機能拡充が進むでしょう。
また、ユーザーは徐々にショート動画の視聴時間でさえ短縮することを求めるようになり、AI要約の機能が各プラットフォームに実装される可能性も高いです。この流れを踏まえると、既にプラットフォーム内で「Grok」というAIが活用できるようになっているXは、大きな影響力を持っていると言えるでしょう。
田村氏:2025年には、InstagramやTikTokなどのビジュアルコンテンツを重視するプラットフォーム(もしくは現存しない新たなSNS)が、消費者行動にさらに大きな影響を与えると考えられます。これらのプラットフォームは、視覚的な訴求力が高く、ユーザーの購買意欲を刺激する特性を持っています。また、ショッピング機能やライブコマース機能の充実により、ユーザーが直接商品を購入できるようになり利便性も高まっています。加えてAIを活用したユーザー個々を対象にした商品提案や、AR技術を用いたバーチャル試着機能など、新技術の導入が進んでいる点も消費者行動に影響を与える要因となるでしょう。
沼田氏:最も影響力を持つSNSプラットフォームは、TikTokとInstagramになると予想します。TikTokは短尺動画とアルゴリズムによる高精度なレコメンド機能が強みで、消費者の購買意欲を瞬時に刺激する特性(興味からズドン)があります。また、Instagramはビジュアル重視のコンテンツとショッピング機能の融合が進み、シームレスな購買体験を提供しています。さらに、YouTubeのショート動画やライブ配信も購買行動に影響を与えるでしょう。このようなプラットフォームは、コンテンツ消費と購買プロセスとの距離を縮め、スムーズな購買体験を実現するため、企業にとってもマーケティングの重要な場となると考えます。
3. AI、ARやメタバースといった新技術がSNS購買体験をどう変化させると予想しますか?
大野氏:ARやメタバースの技術は着実に進化し続けますが、デバイスや通信環境の制約もあるため、2025年時点では一部のユーザーや企業による限定された活用にとどまると考えられます。
一方、AIはプラットフォーム、企業、消費者すべての行動に大きな影響を与えるでしょう。たとえば、AIによる最適なコンテンツのデリバリー、大量のコンテンツ生成、要約などの機能の普及が進み、SNS上での購買体験はよりパーソナライズされていきます。
企業にはユーザーごとに最適化されたコンテンツを提供することが求められ、消費者にもまた、自分に合った情報を得るために時間をかけることが定着していくでしょう。
田村氏:AIの進化により、消費者は価格比較や商品提案(接客体験)にAIを活用し、効率的な購買体験を得られるようになると考えます。AR技術の導入により、バーチャル試着や商品の3D表示が一般化し、オンラインでも実店舗に近い体験が提供される動きが加速するでしょう。メタバースの発展に伴い仮想空間内でのショッピングやブランド体験が可能となり、消費者は新たな購買体験を享受できるようになると考えられます。このような技術革新の流れから、SNS上での購買体験はより直感的で没入感のあるものに進化すると予測します。
沼田氏:AI、AR、メタバース等の進化により、SNS購買体験はより没入感のあるものへと変化していくと考えています。たとえば、AIを活用したパーソナライズレコメンド機能が進化し、ユーザーの嗜好に合わせた商品提案(接客体験)が精度を増すでしょう。AR技術を用いたバーチャル試着や、メイクのシミュレーション機能も普及し、消費者が実際に試す感覚で体験をした上で購買判断をできるようになるでしょう。
メタバース空間ではAIアバターを活用したインフルエンサーの活用などが考えられますが、一般層への普及にはまだ時間がかかるかもしれません。企業にはデジタルとリアルを融合させたマーケティング手法を模索することが求められるでしょう。
4. SNSを活用したライブコマースは2025年以降も加速すると思われますか? それとも、視聴者のエンゲージメントを維持するために、新しい形式や体験設計が必要になると考えますか?
大野氏:中国などのライブコマース先進国では、引き続き市場の拡大が続くと考えられます。しかし、日本においてライブコマースは異なる発展を遂げる可能性が高いでしょう。日本ではすでに信頼できる情報源が確立されていることや、中国と比べて人口規模が小さいことから、ライブコマースという手法にこだわる必要性が低いためです。
日本でライブコマースが拡大するには、よりパーソナライズされた形式が鍵となるでしょう。たとえば、消費者ごとに最適化された説明をする仕組みが考えられます。その実現には、消費者の数に応じて爆発的に配信者を増やす必要があるため、AIの活用が不可欠です。さらに、情報が世界中にあふれる中で、「ライブコマース」が優先的に視聴されるコンテンツになるかという視点では、依然としてハードルは高いでしょう。
日本では現在も、TVを始めとするリッチな映像コンテンツが大きな影響力を持っています。この流れを踏まえると、TVドラマやNetflixなどの映像コンテンツとSNSが連動し、登場する商品をその場で購入できるようなライブコマースの形が登場する可能性も考えられます。
田村氏:SNSを活用したライブコマースは、2025年以降も成長すると考えます。しかし、視聴者のエンゲージメントを維持・向上させるためには、単なるライブ配信に留まらず、AR技術を活用したバーチャル試着や、AIによるリアルタイムな商品提案など、新たな技術や体験設計の導入が求められるでしょう。また、消費者のインフルエンサーに対する信頼が低下していることから、より信頼性の高い情報提供をしたり専門家の意見を取り入れたりすることも重要となります。
沼田氏:中国のような爆発的な普及とまではいきませんが、日本においても徐々に加速すると考えています。動画での情報取得が主流化し、各プラットフォームが購買機能を充実させつつあるため消費者のSNSでの購買意欲も高まっており、インフルエンサーやUGCなど人を介してモノを買うスタイルが定着しつつあることが要因と見ています。
今後のさらなる加速のためには、認知をとるためのコンテンツではなく購入促進のためのコンテンツノウハウの蓄積や、インフルエンサーではなくコマ―サーの育成などが鍵となるでしょう。まずはTikTokを主戦場として今年から伸びてくる可能性はあると予想しています。
2025年のSNS消費者行動予測の概要
2025年には、AIの進化とコミュニティの強化により、SNSの消費者行動に変化が生じるでしょう。AIが購買プロセスに組み込まれることで、消費者は検索に頼らずに最適な情報を得られるようになるため、消費者の情報収集方法に変化が生じることが予想されます。
また、消費者が自ら情報を選択する傾向が強まり、信頼できるコミュニティの影響力も増すでしょう。インフルエンサーへの依存度が低下し、UGCの活用が進むことも考えられます。さらに、AR技術の発展により、オンラインでのリアルな商品体験が進むと予測されます。SNSマーケティングの強化に向け、ぜひ参考にしてください。
専門家のプロフィール:
・大野 俊太郎氏:株式会社ホットリンク 執行役員 経営企画担当
2019年6月、ホットリンクに入社。前職のインターネット広告代理店勤務時より一貫して企業のソーシャルメディアマーケティング支援に従事。コンサルティング本部の部長・本部長を経て、2024年1月より執行役員に就任。
(株)ホットリンクHP:https://www.hottolink.co.jp/
・田村 憲孝氏:株式会社ウェブタイガー代表取締役/AI・ソーシャルメディアコンサルタント
2010年より企業自治体向けSNSに携わり、2023年より生成AIコンサルとして運用研修・講演・勉強会・セミナーなどを開催。 SNSおよび生成AI関連の著書は7冊に上る。
X:https://x.com/onikohshi
・沼田 早紀子氏:株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 事業部長
(株)ガイアックスのソーシャルメディアマーケティング事業部長として、美容健康、インフラ、食品、メーカー、BtoBなど、幅広い業界でソーシャルメディア戦略の立案やアカウント運用に豊富な実績を持つ。