多くの情報であふれかえっている現代では、正確な情報を発信する上でファクトチェックが欠かせません。
一方で、ファクトチェックという言葉を聞いたことはあるものの、正しいやり方がわからない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ファクトチェックの概要や実施する方法、事例などを解説します。おすすめのツールや事例も紹介するので、ぜひお役立てください。
ファクトチェックとは?
ファクトチェックが重要な理由
日本におけるファクトチェックの現状
ファクトチェックの対象となる範囲
ファクトチェックの方法
ファクトチェックで代表的なサービス
ファクトチェックを難しくする5つの要因
ファクトチェックの事例
まとめ|ファクトチェックを実施して正確な情報を発信しよう
ファクトチェックとは?
ファクトチェックとは、公表されている情報の真偽を検証し、人々と共有する行為を指します。単に発信する情報に誤りがないかの事実確認にとどまりません。
「この数値は間違っている」「拡大解釈された情報である」といった検証結果を人々に知らせるまでがファクトチェックです。
ファクトチェックが重要な理由
ファクトチェックが重要なのは、国内外問わずフェイクニュースが増加しているからです。昨今は、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及が進み、真実性が不確かな情報があふれています。情報が拡散されるスピードも速まっており、社会に大きな影響を与えてしまうおそれがあります。
企業の立場で考えると、ひとたび誤情報を発信すれば、自社の信頼性が損なわれるだけでなく、他者に損害を及ぼしてしまう可能性があるので、ファクトチェックは欠かせないのです。
日本におけるファクトチェックの現状
総務省の公表した「令和5年 情報通信白書」によると、日本におけるファクトチェックの認知度は諸外国に比べて低いです。
日本国内でもっとも多い回答は、ファクトチェックを「知らない」で、他国よりも高い53.6%を占めています。「内容や意味を具体的に知っている」と回答した割合も10.2%しかありません。現状では、ほとんどの日本人が正しく理解していないといえるでしょう。
<ファクトチェックの認知度>
画像引用:総務省「令和5年 情報通信白書」
ファクトチェックの対象となる範囲
ファクトチェックの対象となる範囲は、社会への影響力があり、かつ正しいかどうかはっきりしない情報すべてです。これはネット上の情報とは限りません。具体例は以下の通りです。
- メディアのニュース記事
- 政治家や有識者、著名人の発言・言説
- 広告
- 企業の発表
- 一般人の投稿
ファクトチェックの方法
ファクトチェックを実施する方法は以下の通りです。
- 報道機関や公的機関の情報と照合
- 一次情報との比較
- 最新情報であるか確認
- 文章の曖昧表現を確認
- 専用サービスを利用
順番に解説します。
1. 報道機関や公的機関の情報と照合
真実性が不確かな情報を目にしたら、テレビや新聞社などの報道機関や政府・自治体などの公的機関の情報と照合しましょう。
情報が真実なのであれば、報道機関や公的機関も同様の情報を発信している可能性が高いからです。ネットで検索すれば、当該情報とあわせて、発信元もわかるので、真偽を容易に判断できます。
2. 一次情報との比較
一次情報と比較することで、ファクトチェックを行えます。一次情報とは、直接の体験や調査、研究などによって得られたオリジナルの情報のことです。具体例は、論文やアンケート調査結果などです。
フェイクニュースの中には、一次情報を取り入れているものの、一部が切り取られたり、本来なかった情報が加えられたりしているケースがあります。
注目を集めることを目的に、内容が誇張されているケースもあるので、一次情報と再度比べて事実関係をチェックすることが大切です。
3. 最新情報であるか確認
時間の経過とともに真偽が変わる場合があるので、情報が最新のものであるかチェックしましょう。
例えば、新型コロナウイルス感染症が流行した当初は、手洗いとうがいが推奨されていました。しかし、のちに厚労省などが「うがいによる効果は科学的に立証されていない」としたこともあり、以降うがいは感染予防に効果がないとする説が一般的になりました。
扱う情報が古い場合は、報道機関や公的機関、一次情報などの最新情報と比較してファクトチェックを行いましょう。
4. 文章の曖昧表現を確認
文章に「かもしれない」や「だろう」といった曖昧な表現が含まれていないかチェックしましょう。
曖昧な表現が含まれている場合、根拠が明確でなかったり、発信者の推測や想像が含まれている可能性があるからです。
「かもしれない」と書かれている情報を断定表現で扱ってしまうと、誤情報になってしまうおそれがあるので、細かい部分まで見極める必要があります。
5. 専用サービスを利用
専用サービスを利用すれば、ファクトチェックにかかる労力を省くことが可能です。
多くのサービスでは、調べたい情報を入力すれば、自動で根拠となる事実が検索され、真偽を確認できます。扱う情報が多い場合や社内にリソースが少ない場合は、積極的に活用することをおすすめします。
ファクトチェックで代表的なサービス
ファクトチェックを実施する際におすすめのサービスは以下の5つです。
- FactCheck Navi
- リトマス
- 日本ファクトチェックセンター
- Fact Check Explore
- InFact
順番に解説します。
1. FactCheck Navi
FactCheck Naviは、ファクトチェックの普及・推進活動を行っている非営利団体「FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)」が提供しているサービスです。メディアやファクトチェック専門の団体によるファクトチェック済みの記事が、一覧で見られるようになっています。
調べたいキーワードを入力すれば、以下の判定とともに関連する記事が表示されます。
- 正確
- ほぼ正確
- ミスリード(誤解を招く)
- 不正確
- 誤り
- 根拠不明
- 虚偽
- 判定留保
2.リトマス
リトマスは一般社団法人リトマスが提供するファクトチェックサービスです。2023年には国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の認証団体となり、政治的な中立性や資金源の透明性などの原則が厳守されています。キーワードで検索すれば、関連記事とともに以下の判定が表示されます。
- 正確
- ほぼ正確
- ミスリード
- 不正確
- 根拠不十分
- 誤り
- 虚偽
- 判定保留
- 検証対象外
3. 日本ファクトチェックセンター
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックの実践に加えて、メディア情報リテラシーの普及活動を行っている非営利組織です。ホームページ上で、メディアリテラシーやファクトチェックに関する講座を公開しています。なお、ファクトチェックの判定結果は以下の5つです。
- 正確
- ほぼ正確
- 根拠不明
- 不正確
- 誤り
4. Fact Check Explore
Fact Check Exploreは、Googleが提供するファクトチェックサービスです。日本語の記事には対応していないものの、国際的な情報の真偽を判断するのに役立ちます。記事は以下のように様々な表現で判定されます。
- True(正しい)
- Mosty True(ほぼ正しい)
- Partly False(部分的に不正確)
- Mosty False(ほぼ不正確)
- False(不正確)
- No Causation(因果関係なし)
- Misleading(ミスリード)
- Fake(虚偽) など
5. InFact
InFactは、特定非営利活動法人インファクトが提供するファクトチェックサービスです。政治や社会情勢、国際問題などを中心に取り扱っており、特に選挙関連の記事を取り上げているのが特徴です。情報は以下の4レベルで判定されます。
- ほぼ正確
- 根拠不明、不正確、ミスリード
- 誤り
- 虚偽
ファクトチェックを難しくする5つの要因
ファクトチェックはツールを使用すれば、確実に真偽を判断できるとは限りません。その理由として、以下の5つが挙げられます。
- 情報の複雑さ
- 拡散スピード
- AI技術の発展
- 意図的な誤情報の発信
- メディアの進化
順番に解説します。
1. 情報の複雑さ
現代は、スマホやSNSの普及により、様々な情報であふれており、個人でも簡単に情報を発信することが可能です。
1つの事実にも人それぞれの捉え方があったり、一部のみを切り取られて詳しい背景が報道されなかったりするため、信頼性のある情報を見極めるのが難しくなっています。
2. 拡散スピード
現代は、リアルタイムで様々な情報が飛び交っているだけでなく、SNSで簡単に共有できるため、瞬く間に拡散され、ファクトチェックが追いつかないことがあります。
また、ファクトチェックには時間がかかるため、誤った情報が定着してしまうと訂正するのも難しくなる恐れがあります。
3. AI技術の発展
生成AI技術の発展により、写真や映像を偽造するのが簡単になったのもファクトチェックが難しくなった理由の1つです。いわゆるディープフェイクと呼ばれるもので、AIによるディープラーニングと偽造のフェイクをかけ合わせた合成メディアが普及し始めています。
見た目では偽物と判断しきれないくらいのクオリティがあるため、真偽を判定しづらくなっているのです。
4. 意図的な誤情報の発信
意図的に誤情報を発信し、炎上させて耳目を集めるケースが増えています。動画の再生回数や記事の閲覧数を増やすことを目的としており、拡散されやすいように情報を発信しているため、ファクトチェックが追いつかないのです。
5. メディアの進化
現代は、多種多様なネットメディアが存在しており、以前よりもファクトチェックの対象が増えています。さらに、常に新しい情報が発信され続けているので、ファクトチェックがなされる前に誤情報が広まってしまう恐れがあることが難点です。
▶あわせて読みたい:メディアリテラシーとは?重要性や企業リスク、高める方法を解説
ファクトチェックの事例
ファクトチェックの事例を3つ紹介します。
- 新型コロナウイルス
- 政治家の発言
- メディアの報道
1. 新型コロナウイルス
2020年2月にまとめサイトにて、「新型コロナウイルスに『HIV(エイズウイルス)』のタンパク質が挿入されていることをインド工科大学の科学者たちが発見」といった情報がネット上で拡散されました。
BuzzFeed Newsがウイルス学を専門とする医師の協力を得て、ファクトチェックを実施した結果、この情報は誤りでした。医師によると、新型コロナウイルスとHIVのタンパク質の一部は遺伝情報の配列が似通っているものの、他の多くの生物にも同様の配列が見られるとのことです。
2. 政治家の発言
2023年7月にツイッターにて、【動画あり】「自民党・岸田『人口の9割が外国人でも問題ない』」という投稿が発信されました。
実際は、岸田首相は「外国人の受け入れは大きな課題であり、共生社会を考えていく」とした上で、「共生の仕方は世界様々で、人口の9割が外国人の国もある」と具体例を挙げたに過ぎませんでした。一部の表現を拡大解釈しているため、「誤り」と判定されています。
参照:InFact
3. メディアの報道
2022年3月にある放送局が「水際対策の緩和 入国も困窮の外国人留学生に10万円支給決定 政府」という見出しで報道しました。
実際は、10万円の支給対象は留学生のみではなく、給付型奨学金の利用者や学校が推薦した学生など日本人学生も含まれていました。また、当該給付金は、水際対策が緩和された3月1日以前より実施されていたため、「ミスリード」と判定されています。
まとめ|ファクトチェックを実施して正確な情報を発信しよう
企業にとってファクトチェックは消費者や株主、従業員などのステークホルダーと信頼関係を構築する上で欠かせないプロセスです。
一度でも誤情報を発信してしまうと、築き上げてきたブランド価値もすぐに失墜してしまい、回復にも時間と労力を要するでしょう。
公的機関や一次情報を確認するだけでなく、ファクトチェックサービスを活用して、事実確認を行った上で正確な情報を発信しましょう。
この記事の監修者:
馬見塚 堅 (Meltwater Japanエンタープライズソリューションディレクター)
2016年にMeltwater Japan株式会社入社。
外部データ活用に向けてマーケティング・企画・広報部向けのコンサルティングを7年で200社以上を担当。 現在は、大手企業や官公庁向けのソリューション企画に従事。インフルエンサーマーケティングや消費者インサイトに関するセミナー実績多数。
趣味:旅行、子育て情報収集、仮想通貨、サッカー観戦(川崎フロンターレの大ファンです)