現代社会では情報が大きな影響力を持ちます。そのため、事業活動を行う企業にとって、情報の正否を正しく判断できるかどうかは、重要なポイントです。
そこでこの記事では、情報を正しく見極める能力であるメディアリテラシーについて解説します。
メディアリテラシーの向上が求められる背景や欠如した場合のリスクに加え、メディアリテラシーを高めるための方法もご紹介しています。
メディアリテラシーとは?
メディアリテラシーとは、メディアの特性を理解した上で、手に入れた情報の正否を見極め、取捨選択するスキルのことです。
総務省は以下のように定義しています。
メディアリテラシーとは、次の3つを構成要素とする、複合的な能力のこと。
- メディアを主体的に読み解く能力。
- メディアにアクセスし、活用する能力。
- メディアを通じコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ) コミュニケーション能力。
SNSやインターネットの発達により、誰でも簡単に情報を発信できる時代となりましたが、それに伴いAI技術を駆使したディープフェイクなどを含め、様々なフェイクニュースも飛び交うようになりました。
こういった状況下においては、一般消費者は勿論、企業にとっても、情報を収集し活用する上でメディアリテラシーが欠かせないのです。
メディアリテラシーと情報リテラシーとの違い
メディアリテラシーと関連する概念として、情報リテラシーがあります。
情報リテラシーとは、情報を活用するスキルのことです。
情報の正否を判断し、その情報を正しく活用する包括的な能力であるため、メディアリテラシーと近い意味合いを持ちます。
ただし情報リテラシーは、メディアを含めたあらゆるソースからの情報収集と活用する能力を指します。そのため、扱う情報の範囲において、情報リテラシーの中にメディアリテラシーが内包されていると言えるでしょう。
メディアリテラシーが求められるシーン
企業のマーケティング活動の中にも、メディアリテラシーが必要となる場面は多々あります。
例えば、オウンドメディアやSNSなどを用いて顧客向けにコンテンツを作成する際に、自社内のデータやインターネットなどから情報を収集することがあります。
自社のことはよくわかっているからと言って油断せず、正しい情報を取捨選択した上で、コンテンツを創り上げる必要があります。読む人によって異なる捉え方がされないか、投稿前に複数人で表現をチェックするのもよいでしょう。
特に健康や医療、金融などといったYMYL(Your Money or Your Life)に含まれるテーマを扱う場合、だれかの人生を大きく左右する場合があるため、情報を正確に伝えるメディアリテラシーが非常に重要になるのです。
メディアリテラシー向上の必要性
ここでメディアリテラシーの向上が求められている背景について確認します。
1. 誤情報や偽情報が増加している
誤情報や偽情報は身近な存在となっており、多くの人の目に触れられています。
引用:わが国における誹謗中傷・フェイクニュースの実態と社会的対処
このグラフは2020年1月〜7月にファクトチェックされたフェイクニュースとの接触率を表しています。
グラフを見ると、半数以上の人がフェイクニュースに接触していることがわかるでしょう。
こういった状況の中では、メディアリテラシーの向上が求められることは言うまでもありません。
実際、メディアリテラシーが高いほど誤情報・偽情報に気付きやすく、さらには誤情報・偽情報を拡散しにくいことが調査によって示されています。
引用:情報通信白書令和5年版 第2章第3節 インターネット上での偽・誤情報の拡散等 |総務省
様々な情報を発信する企業においては、従業員教育の一環としてメディアリテラシーを高める必要があるでしょう。
2. メディアによって情報の偏りがある
現代は新聞やテレビだけでなく、Web上にも様々な情報メディアが存在しており、参照するメディアによっては、同じテーマでも情報が偏っているケースがあります。
例えば、「平均所得が30年前よりは上昇しているものの、5年連続で停滞している」といった情報があったとしましょう。
この情報を受けてメディアAは「30年前より平均所得が○○万円上昇している」と記載し、メディアBは「平均所得は5年連続で停滞している」と記載しました。
メディアAを参照した人は、所得が上昇しているという印象を持ちますが、メディアBから情報を得た人は、所得は上昇していないという印象を持つでしょう。
このように参照するメディアによって、その情報から得られる印象が大きく変わり、間違った判断や認識をしてしまう恐れがあるのです。
企業が情報を発信する際、特定のメディアの情報だけをソースにしてしまうと、顧客に対して間違った認識を植え付けてしまうリスクが生じます。情報を正しく伝えるためには、従業員のメディアリテラシー教育は欠かせないと言えるでしょう。
3. SNSの普及により拡散が容易になった
SNSが普及したことにより、今では誰もが簡単に情報を発信・拡散できます。
SNSが登場する前、情報を発信できるのは報道機関や企業といった情報発信媒体を持つ一部の組織に限られていました。
しかし今は一般消費者を含め、あらゆる人がSNSを用いて情報発信源になることができます。そのため、フェイクニュースが出回る可能性が高まりました。
フェイクニュースは人の興味をかきたてるため、真実よりも拡散スピードが速く、拡散範囲も広いという研究結果があります(学術誌Sience 2018)。フェイクニュースに左右されないためにも、より一層メディアリテラシーの必要性が高まっているのです。
メディアリテラシーの欠如によって生じる企業リスク
それでは、もしメディアリテラシーが欠如した場合、企業にとっ てどのようなリスクが生じるのでしょうか。
1. 企業イメージや企業価値の毀損
メディアリテラシーが欠如していることに起因し、企業がフェイクニュースを拡散してしまえば、顧客や社会から不信感を抱かれてしまいます。
企業が発信する情報は、顧客にとって重要なものであり、一般消費者の発信する情報よりも重く受け止められます。
誤情報や偽情報をソースとしたコンテンツなどを配信したり、差別的な内容を投稿したりしてしまうと、企業のイメージ低下に直結するでしょう。
長期間の事業活動で蓄積してきた企業価値が一瞬にして損なわれ、思わぬ機会損失や売上の減少に見舞われることになりかねません。
2. 不適切投稿による炎上
メディアリテラシーが欠如していると、SNSによる投稿で不適切な内容を扱ってしまい、炎上する可能性が高まります。
特に、従業員が個人的に利用するSNSの場合は、複数の人による内容チェックがされないまま投稿されるため、炎上リスクがはらんでいると言えます。
実際、ITコンサルティングサービスを提供する企業の人事担当者が、「給与や待遇で会社を選ぶ人と働きたくない」とTwitterで個人的に投稿したため、炎上してしまった事例もあります。優秀な人材を逃すかもしれず、企業にとっては大きな損失です。
このようにメディアリテラシーを十分に持っていない従業員は、誹謗中傷や差別的な発言をしてしまう可能性があります。
<参考:「給与で会社を選ぶ人とは働きたくない」 人事担当の投稿が物議 “実名アカウント”の炎上リスク浮き彫りに|ITmediaビジネスオンライン>
3. 事業活動に必要な正しい情報を得られない
企業が事業活動を推進する際、社会情勢や競合の動向など様々な情報を収集することになりますが、メディアリテラシーが欠如している場合、誤った情報を集めてしまう可能性があります。
その結果、誤った情報を基に意思決定をすることなり、事業発展に繋がらないリスクがあるのです。
最悪の場合、売上の大幅な減少など、倒産に繋がりかねない事態を引き起こす可能性もあるでしょう。
メディアリテラシーを高める方法
ここまでの内容を踏まえ、メディアリテラシーを高める方法をご紹介します。
1. 事実と意見を区別する
メディアから情報を取得する際は、そこで提供されている情報が事実を述べたものであるのか、それとも情報提供者の意見なのかを、区別する必要があります。
もし事実と意見を混同し、意見を事実であるかのように捉えてしまえば、誤った情報の拡散などに繋がりかねません。
「~ではないだろうか」「~かもしれない」などのあいまい表現がある場合は意見であることが多いです。しかし、「~です」「~ます」といった断定表現であっても、意見の場合があるため文脈全体から理解する必要があります。
「事実なのか、意見なのか」を意識しながら情報を参照することで、誤った認識を防ぐことができるでしょう。
2. 発信者の意図を考える
情報発信者が何を目的として発信しているのか、その意図を考えながら情報を参照することで、メディアリテラシーを高めることができます。
情報提供者には必ず何らかの意図があります。
例えば、以下のような意図が考えられるでしょう。
- 情報を広く周知したい
- 購買を促進したい
- 企業のイメージを向上させたい
- 世間に注目されたい
- アフィリエイトなどによる収入を得たい
これらの意図を考えることで、情報が偏っていたり誇張されていたりしていないか見極めるのに役立ちます。
発信者の意図を考える癖が身に付けば、自ずと情報の正否を見極める力も高まるでしょう。
3. 信憑性の高い情報源を探す
情報収集を行う際、信憑性の高い情報源を探すことは何よりも重要です。
情報源の信憑性の高い順は、以下の通りです。
- 各省庁
- 各省庁と関連する公的機関や研究所
- 特定分野における権威や専門家
- 特定分野において実績のある企業
- 民間のメディア
- 個人
情報を収集する際、まずは各省庁や公的機関による一次情報はないかを探します。
各省庁などが発信している情報がなければ、その分野における権威や専門家を当たり、そこでも有益な情報が得られなければ企業やメディアの情報を探すとよいでしょう。
企業やメディアが発信する情報であっても、情報の参考文献や参考データが信頼に足るものであれば、ある程度信憑性が担保されます。
▶あわせて読みたい:ファクトチェックとは?重要な理由とチェック方法を解説
4. 複数の媒体から情報収集し比較する
情報源は一つだけでなく複数を当たりながら比較することも、メディアリテラシー向上に繋がります。
一つの情報源だけを参照すると、その情報が偏っていた場合、フェイクニュースを広めてしまう可能性があります。
複数の情報源を比較し、違いや共通点を見極めることで、そのテーマに関する本質的な要素を導き出すことができるでしょう。
5. 批判的思考を身に付ける
批判的思考を身に付けることで、自分自身の情報収集の偏りを防ぐことができます。
批判的思考とは、物事を多面的且つ客観的に捉える思考法です。
例えば、信頼できるメディアの順位でテレビは2位であるというデータを見ると「テレビは正しい情報を伝えるメディアだ」という印象を持ちます。しかし、さらに情報を探すと、フェイクニュースの入手先1位がテレビであるというデータもありました。(総務省 令和3年版 情報通信白書)
複数の情報から考えると「テレビは正しい情報にしろ間違った情報にしろ、多くの人に情報を伝え、影響力があるもの」といった捉え方ができます。
人間には確証バイアス、つまり自らの意見や考えを肯定するような情報だけを集める傾向があります。
確証バイアスをそのまま放置すると、集める情報に偏りが生じ、間違った意思決定をしてしまうかもしれません。
批判的思考を身に付けることができれば、自分の意見と反対の情報も注視するようになり、情報収集の質が高まります。より有効的に情報を活用できるでしょう。
6. 情報発信のルールやマナーを学ぶ
メディアリテラシーを向上させるには、情報収集に関する考え方だけでなく、情報発信におけるルールやマナーを学ぶことも重要になります。
著作権や肖像権といった法的なルールを守ることは勿論、プライバシーへの配慮や差別的な表現はしない、といったマナーも身に付けておかなければなりません。
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)についても、どういったものがあるのかを認識しておくことで、不適切な投稿を未然に防ぐことができます。
情報を参照する際に役立つチェックリスト
最後に情報を参照する際に役立つチェックリストをご紹介します。
今回ご紹介する二つのチェックリストのうち、「だいじかな」は、アメリカの図書館協会が開発した「CRAAP(クラップ)テスト」の日本語訳です。
もう一つの「さぎしかな」は、メディア・リテラシー・センター(CML)による5つのキークエスチョンを日本語訳にしたものです。
情報収集時のチェックポイントを網羅しているので、ぜひご活用ください。
「だいじかな」チェックリスト
項目 | 内容 |
---|---|
だれ? | この情報は誰が発信したのか? |
いつ? | いつ発信された情報なのか? |
じじつ? | 情報は事実なのか?確たる参照元はあるか? |
かんけい? | 自分とどのように関係するのか? |
なぜ? | 情報発信の目的や意図は何か? |
「さぎしかな」チェックリスト
項目 | 内容 |
---|---|
さくしゃ | メッセージの作者は誰なのか? |
ぎじゅつ | どんな表現技術が使われているのか? |
しちょうしゃ | 他の視聴者はどう解釈しているのか? |
かちかん | どんな価値観が表現、あるいは排除されているのか? |
なぜ | なぜこのメッセージが発信されたのか? |
<参照:JIMA : [特別寄稿] メディアリテラシーとは何か——その概念・事例・課題>
まとめ
今回はメディアリテラシーの必要性や欠如した場合のリスク、向上させる方法などをまとめて解説してきました。
情報化が進む現代社会において、正しい情報を収集し活用する能力は、あらゆる個人や企業にとって重要な能力と言えます。
今後AI技術が発展し、さらにフェイクニュースなどが横行する可能性もあることから、メディアリテラシーを習得・向上させることは、緊急性の高い課題となるでしょう。
この記事が読者の方のメディアリテラシー向上に繋がれば幸いです。
この記事の監修者:
馬見塚 堅 (Meltwater Japanエンタープライズソリューションディレクター)
2016年にMeltwater Japan株式会社入社。
外部データ活用に向けてマーケティング・企画・広報部向けのコンサルティングを7年で200社以上を担当。 現在は、大手企業や官公庁向けのソリューション企画に従事。インフルエンサーマーケティングや消費者インサイトに関するセミナー実績多数。
趣味:旅行、子育て情報収集、仮想通貨、サッカー観戦(川崎フロンターレの大ファンです)