企業のマーケティング担当者の中には、顧客との関係性を強化したいと考えている方も多いのではないでしょうか。そこで注目したいのが、「タッチポイント」という考え方です。
タッチポイントとは、顧客との接点となるあらゆる場面やチャネルのことです。Webサイトや店舗、SNSなど、あらゆる接点がタッチポイントとなり得ます。タッチポイントを活用することで、顧客体験を向上させ、自社の売上アップにつなげることが可能です。
本記事では、タッチポイントの基本的な概念から、設定の手順、成功事例などをわかりやすく解説していきます。
タッチポイント(顧客接点)とは?
タッチポイントの目的
タッチポイントの具体例
タッチポイント設定の手順
タッチポイントを強化する方法
タッチポイントの成功事例
まとめ|タッチポイントを活用し、顧客との関係性を深めよう
タッチポイント(顧客接点)とは?
タッチポイント(touch point)とは、企業あるいはその商品・サービスと顧客が関わる全ての接点のことです。顧客の行動や意識を変化させる重要な機会で、オンラインとオフラインの両方に存在します。日本では、顧客接点と呼ばれており、顧客の購入プロセスを見える化した「カスタマージャーニー」を考える際に欠かせない要素の1つです。
WebサイトやSNS、展示会などはもちろん、顧客が商品を探しているときに見たインスタグラムの広告、店舗での店員との会話、アフターサービスのメールのやり取りなどもタッチポイントです。
企業はタッチポイントを増やし、各場面で顧客に良い印象を与えることで、満足度の向上や購買行動につなげられます。
タッチポイントの目的
タッチポイントを設定する主な目的は以下の3つです。
- 認知度の向上
- 継続的な利用の促進
- ブランディングの強化
順番に詳しく解説します。
1. 認知度の向上
タッチポイントを明確にし、戦略的にアプローチすることで、自社や商品・サービスの認知度を高めることが可能です。SNS広告を活用して、ターゲット層に合わせた訴求を行ったり、インフルエンサーとのコラボレーションを通じて、商品の魅力を伝えたりする手法があります。
また、展示会やイベントへの出展などのオフライン施策も重要です。潜在顧客との直接的な接点を持つことで、ブランドの認知度を高め、新規顧客の獲得につなげられます。オンラインとオフラインの施策を適切に組み合わせ、一貫性のあるメッセージを発信することが大切です。
2. 継続的な利用の促進
既存顧客との関係性を強化し、リピート率を高めることもタッチポイントの重要な目的です。購入後のフォローメールやアンケート、会員限定の特典を配布するといったアプローチ方法で顧客のエンゲージメントを高められます。
顧客の声に耳を傾け、ニーズに合わせて商品・サービスを改善すれば、継続的に利用してもらいやすくなります。ポイントは、顧客一人ひとりの行動履歴や嗜好を把握し、パーソナライズされたアプローチを行うことです。価値ある体験を提供し、信頼関係を築くことで、ロイヤルカスタマーを増やし、長期的な成長につなげられます。
3. ブランディングの強化
ブランディングの強化を目的にタッチポイントを設定するケースもあります。Webサイトのデザインや店舗の雰囲気、接客スタッフの対応など、あらゆる接点で、ブランドの世界観を一貫して表現することで、ブランドに寄せられる信頼や愛着を深めることが可能です。
ポイントは自社の強みや独自性を明確にし、他社との差別化を図ることです。タッチポイントを活用すれば、顧客に愛される唯一無二のブランドを確立できます。
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タッチポイントの具体例
タッチポイントは購入プロセスごとに様々です。具体例をオフラインとオンラインに分けて解説します。
顧客の購入プロセス | オフラインのタッチポイント | オンラインのタッチポイント |
---|---|---|
認知 | ・テレビやラジオCM ・雑誌や看板広告 ・チラシ ・セミナー ・展示会 | ・Webサイト ・Web広告 ・SNS ・ブログ ・ウェビナー |
興味・関心 | ・テレアポ ・訪問営業 ・セミナー | ・DM ・メルマガ ・ホワイトペーパー ・Web広告 ・SNS ・ウェビナー |
比較・検討 | ・店舗での接客 ・訪問営業 ・テレアポ | ・オンライン商談 ・Webサイト ・SNS ・ホワイトペーパー |
購入 | ・店舗での接客 ・訪問営業 | ・Webサイト ・ECサイト |
リピート・アフターケア | ・カスタマーサポート ・カスタマーサクセス | ・カスタマーサポート ・カスタマーサクセス ・メルマガ ・ファンコミュニティ |
タッチポイントごとに、どのようなアプローチを行うかを明確に定めることがポイントです。
例えば、認知の段階では、インパクトのあるテレビCMを用いて、潜在顧客の注目を集めるのも手です。興味・関心の段階では、DMで魅力的なキャッチコピーを件名に添えて開封率を高めるのもよいでしょう。
タッチポイント設定の手順
タッチポイントを設定する手順は以下の通りです。
- ブランドイメージの明確化
- ペルソナの設定
- カスタマージャーニーマップの作成
- 施策の実行
順番に解説します。
1. ブランドイメージの明確化
タッチポイントを設定する際の第一歩となるのが、ブランドイメージの明確化です。ブランド戦略の根幹をなす重要な要素でもあります。顧客に伝えたい価値観や独自性を定義し、効果的に伝えられるメッセージやビジュアルを設計しましょう。
例えば、ブランドイメージとして「イノベーション」を掲げるなら、先進的な技術や斬新なアイデアを取り入れたコンテンツを発信するのがよいでしょう。「サステナビリティ」であれば、環境保護活動の取り組みを紹介するなど、ブランドの価値観がうまく伝わるようにするのが効果的です。
2. ペルソナの設定
次に、ペルソナ分析を行い、自社の商品・サービスを必要としている顧客像を具体的に描きます。ペルソナとは、ターゲットをさらに詳細に設定した顧客像のことです。年齢や性別だけでなく、職業や趣味、ライフスタイル、抱えている課題など、できる限り詳細にペルソナを設定しましょう。
例えば、「大手IT企業に勤務する30代前半の男性エンジニアで、業務効率化に役立つツールを探している。一人暮らしで、休みの日はよくキャンプに行く。SNSは仕事上ではFacebookを使うが、プライベートではInstagramもよく使う」といった具合です。ポイントは、実在するかのようなリアリティのあるペルソナを設定することです。顧客の行動パターンや心理をより深く理解し、共感を呼ぶようなタッチポイントを設計できます。
3. カスタマージャーニーマップの作成
ペルソナを設定したら、顧客の意思決定プロセスを可視化するカスタマージャーニーマップを作成します。認知から購入、アフターフォローの各フェーズで、顧客がどのような情報を求め、どんな体験を期待しているかを想定し、最適なタッチポイントを配置していく方法です。
以下は、カスタマージャーニーマップの一例です。
フェーズ | 認知 | 比較・検討 | 購入 | 購入後 |
---|---|---|---|---|
顧客の期待・悩み | 人手不足により、業務効率化に役立つツールを探している | 類似商品との違いが知りたい | お試し期間があり、実際に使ってみて購入を決断 | 使い方がわからなかった場合、相談できるところはあるか |
タッチポイント | ・SNS ・オウンドメディア | ・オウンドメディア(Webサイトやパンフレット)で、商品の価格や特徴の明確化 ・問い合わせやセミナーを通して活用方法をアドバイスし、見積もりを立てる | ・Webサイト ・訪問 | ・相談窓口 ・フォローアップメール ・アンケート |
カスタマージャーニーマップを作成する際は、顧客視点に立って考えましょう。顧客の心理を深く理解した上で、タッチポイントを設定できます。
4. 施策の実行
選択したチャネルやコンテンツが、ブランドイメージやペルソナのニーズに合致しているか、入念にチェックしてから施策を展開しましょう。
例えば、店舗での接客においては、スタッフ教育を徹底し、ブランドの価値観を体現するような対応を心がけるとよいでしょう。メールマーケティングであれば、顧客の属性や行動履歴に基づいて、パーソナライズされたメッセージを配信するのが効果的です。
顧客の反応を見極めながらPDCAサイクルを回し、柔軟に戦略を調整していくことが、タッチポイント最適化の鍵です。
タッチポイントを強化する方法
タッチポイントを強化する方法を3つ紹介します。
- 顧客ニーズに合わせて多様なタッチポイントを提供
- 各タッチポイントの特性を活かす
- 一貫性のあるブランド体験を提供
1. 顧客ニーズに合わせて多様なタッチポイントを提供
顧客は状況やニーズに応じて様々なチャネルを利用するため、オンラインとオフラインの両方で複数のタッチポイントを用意することが大切です。例えば、商品の詳細情報を知りたい時はWebサイトを、実物を見たい時は店舗を訪れるなど、顧客の行動は多岐にわたります。
一方で、タッチポイントを増やしすぎると、管理が煩雑になり、一貫性のあるブランド体験を提供できなくなるリスクがあります。自社のリソースや顧客の特性を考慮しながら、最適な組み合わせを選択しましょう。
2. 各タッチポイントの特性を活かす
タッチポイントごとの特性を理解し、強みを活かすことが重要です。例えば、インスタグラムは写真や動画に特化しているため、ビジュアルに訴求するコンテンツが有効です。ブログは長文に適しているため、専門的な知識やノウハウを深掘りして伝えられます。また、店舗では接客スタッフとの対話を通じて、顧客の悩みや要望を直接聞き出すことができるでしょう。
各タッチポイントに適したコンテンツやアプローチ方法を選択し、継続的に改善を図ることで、タッチポイントの効果を高められます。
3. 一貫性のあるブランド体験を提供
複数のタッチポイントを用意する際は、それぞれが連動し、一貫したブランドイメージを伝えることが不可欠です。なぜなら、タッチポイントで矛盾した印象を与えてしまうと、顧客は混乱し、ブランドへの信頼を失ってしまうからです。
どのタッチポイントからも、ブランドの世界観や価値観が伝えられるように、デザインやトーンを統一する必要があります。
タッチポイントの成功事例
タッチポイントの成功事例を3つ紹介します。
- アプリを活用して購入前の顧客接点を創出(無印良品)
- 店舗での感動体験により購入時の顧客接点を強化(スターバックスコーヒー)
- SNSキャンペーンを通じて購入後の顧客接点を活性化(ハーゲンダッツ)
自社に取り入れられるポイントがないかチェックしてみてください。
1. アプリを活用して購入前の顧客接点を創出(無印良品)
無印良品は、自社のスマホアプリ「MUJI passport」を活用して、購入前の顧客接点の創出に成功しています。
一般的に、購入時にアプリを提示することでポイントが貯まるシステムが多い中、無印良品は、購入しなくても店舗にチェックインするだけでポイント(MUJI passportでは「マイル」)を獲得できる仕組みを導入したのです。
さらに、アプリ上で商品の口コミを投稿することでもポイントが貯まるため、ユーザー同士のコミュニケーションも活性化しています。アプリを通じた購入前の顧客接点の創出が、ブランドへの愛着や信頼感の醸成につながっていると言えるでしょう。
2. 店舗での感動体験により購入時の顧客接点を強化(スターバックスコーヒー)
スターバックスコーヒーは、店舗での購入時の顧客体験を徹底的に高めることで、顧客接点を強化しています。
店舗を「サードプレイス(第3の居場所)」として位置づけ、自宅でも職場でもない、寛ぎの空間づくりに注力しているのが特徴です。店内には、快適なソファが配置され、心地よい音楽が流れるなど、居心地のよさを追求したデザインが施されています。
ドリンクにはレシピがあるものの、接客マニュアルは設けられていません。代わりに、個々のバリスタが自らの判断で心のこもった接客を実践しており、顧客の要望に応じた柔軟な対応が可能です。そのため、顧客はスターバックスコーヒーに強い愛着を抱くようになります。
購入時の顧客接点を商品販売の場としてだけでなく、ブランドとの絆を深める機会として活用することで、他社との差別化を実現した好事例です。
3. SNSキャンペーンを通じて購入後の顧客接点を活性化(ハーゲンダッツ)
ハーゲンダッツは、2013年に実施したSNSキャンペーン「あのフレーバーをもう一度"フレーバー復活選挙"」を通じて、購入後の顧客接点を活性化させることに成功しました。
過去に発売された24種類のミニカップフレーバーの中から、復活させてほしい味を投票で選ぶ企画を展開し、ユーザーからは約26万票もの投票が寄せられました。投票の結果、1位に選ばれた「カスタードプディング」味は実際に復活し、1位に投票した1,000名にプレゼントされました。
SNSキャンペーンを通じて、購入後のユーザーの声に真摯に耳を傾け、ニーズを商品開発に活かした一例です。
まとめ|タッチポイントを活用し、顧客との関係性を深めよう
タッチポイントとは、企業と顧客が接する全ての場面のことを指します。Webサイトや店舗、広告、SNSなど、様々なチャネルがタッチポイントです。
タッチポイントを設定する際は、ブランドイメージやペルソナの明確化、カスタマージャーニーマップの作成が不可欠です。施策の実行に当たっては、顧客のニーズに合わせて多様なタッチポイントを用意し、各チャネルの特性を活かすことが重要です。
自社のビジネスにおいてもタッチポイントの考え方を取り入れて、顧客との関係性を深め、長期的な成長につなげましょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム