現代は、多くの企業が激しい競争にさらされています。特に中小企業においては、限られたリソースの中で他社との差別化を図ることは非常に困難です。「どうすれば顧客に選ばれるのか」といった悩みは、日々の業務の中で常に頭を悩ませる問題でしょう。
そこで重要なのがブランディングです。ブランディングとは、企業や商品の独自性を明確にし、顧客に強く印象付けるための戦略です。ブランディングが成功すれば、商品やサービスの認知度が高まり、顧客からの信頼が増し、リピーターも増えるでしょう。
本記事では、ブランディングの基本的な概念から具体的な実践方法までを詳しく解説します。
ブランディングとは?
ブランディング(Branding)とは、価値あるブランドを作り出すマーケティング活動のことです。企業や商品・サービスの独自性を確立し、他社との差別化を図ります。自社の理想のブランド像と顧客のブランドイメージとのずれを防ぐことも、大切な役割のひとつです。ブランディングは企業の価値を高め、安定した経営につなげます。
ブランド(Brand)のそもそもの意味合いは、他のものと区別することです。
北欧にある古ノルド語の「Brandr」が語源で、「焼き印をつける」という意味があります。自分の家畜が他の家畜に紛れても見分けがつくように、家畜の体に焼き印をつけた習慣から来ました。
現在ブランドは、顧客にとって他にはない価値があるものという意味で使われています。
ブランディングで他社と差別化する要素は、商品の機能やデザインなどです。例えば、アップル社は革新的なデザインや使い勝手の良さで強いブランドイメージを築いています。ナイキ社は、スポーツとファッションを融合したブランドイメージを確立し、多くの顧客を獲得しています。
他にも、企業の価値観や理念なども重要な要素であり、これらを効果的に管理・運用していくのがブランドマネジメントです。
現代のビジネス環境において、ブランディングは不可欠な戦略と言えます。
Meltwaterは、効果的なブランド戦略の策定と実行を支援します。
ブランドを作る要素
ブランドを作る要素と具体例を紹介します。
ブランドを作る要素 | 具体例 |
---|---|
ブランド名 | Meltwater |
ブランドロゴ | |
ブランドカラー | ティールブルー |
ブランドメッセージ | Outside Insight |
ミッション | 常に革新を続け、最高水準のサービスと持続可能な成長を提供する |
開発国 | ノルウェー (現在の本社はアメリカ) |
上記のほかに、キャラクターや音楽、空間デザイン、パッケージデザインなどもブランドを作る要素です。
ブランディングとマーケティング、PRとの違い
ブランディング、マーケティング、PR(パブリックリレーション)は、いずれも企業や商品・サービスの価値を高めるための重要な活動です。
しかし、その目的と手法には違いがあります。
ブランディング | マーケティング | PR | |
---|---|---|---|
目的 | 顧客自らが商品やサービスの価値を認識する | 顧客との関係を構築しながら商品やサービスの価値を伝え、利益を上げる | 不特定多数に向けて、商品やサービスの価値を客観的に知らせる |
手法 | ・ブランドストーリーの作成 ・ブランドメッセージの発信 ・顧客体験の設計 | ・市場調査 ・広告 ・販促活動 | ・プレスリリースの配信 ・記者会見 ・イベントの開催など |
ブランディング、マーケティング、PRは、それぞれ目的や手法は異なりますが、密接に関係しています。
したがって、これらの活動を個別に行うのではなく、企業理念を共有し、一貫した戦略のもとで連携させることが重要です。
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ブランディングのメリット
ブランディングのメリットとして以下の3つが挙げられます。
- 競合商品・サービスと差別化
- 広告費用の削減
- 信頼性の向上
1. 競合商品・サービスと差別化
ブランディングは、自社の商品・サービスを競合他社と差別化するための有効な手段です。差別化に成功したブランドは、価格競争に巻き込まれることなく、顧客からの支持を獲得し、安定した売上を維持できます。
機能性を高めたりデザインやロゴを変えたりする他、ブランドストーリー(ブランドの価値を伝えるコンテンツ)などで自社独自の価値観を打ち出すことで、顧客に強い印象を残せるでしょう。
2. 広告費用の削減
信頼性の高いブランドを築き上げることで、広告宣伝費を大幅に削減できる可能性があります。顧客のブランドロイヤリティ(ブランドへの愛着)が高まれば、口コミや評判によって自然と認知度が向上するからです。
新商品やイベントなどの情報を顧客が自発的に発信することで、広告費用対効果を最大化した効率的なマーケティングを展開できます。
3. 信頼性の向上
ブランディングは、企業や商品・サービスの信頼性を高めるための重要な取り組みです。ブランディングにより、顧客は商品・サービスの効果をイメージします。そのイメージと同等かそれ以上の効果が商品・サービスから得られれば、ブランドに対する信頼は揺るぎないものになるでしょう。
信頼により顧客は安心して購買行動を行うようになり、長期的な関係構築にも役立ちます。
ブランディングの種類
ブランディングは、インナーブランディングとアウターブランディングに分類されます。両者は、互いに補完し合う関係にあります。
インナーブランディングにより、従業員がブランドの価値を理解し、体現できるようになれば、アウターブランディングの効果も高まるという関係性です。
インナーブランディング
インナーブランディングとは、従業員に向けて行うブランディングのことを指します。社内研修や勉強会を通じて、企業の理念や価値観を従業員に浸透させるのが代表的な取り組みです。
インナーブランディングの目的は、従業員一人一人が自社のブランドに対する理解を深め、ブランドの価値観を共有することです。これにより、従業員はブランドの代表者として、お客様に対して一貫したブランド体験を提供できるようになります。
アウターブランディング
アウターブランディングとは、顧客や取引先など、社外のステークホルダーに向けて行うブランディングのことです。一般的に「ブランディング」というと、アウターブランディングを指すことが多いです。広告やPR、パッケージデザインなど、様々な施策が含まれます。
アウターブランディングの目的は、ブランドの認知度を高め、ブランドイメージを確立することです。これにより、顧客からの信頼を獲得し、ブランドロイヤリティを向上させられます。
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ブランディングを実行する手順
ブランディングを実施する手順を解説します。
1. 現状分析を行う
まずは、自社の現状を客観的に把握することから始めます。分析に役立つ代表的なフレームワークは以下の通りです。
フレームワーク | 概要 |
---|---|
3C分析 | 自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の3つの視点から分析 |
SWOT分析 | 自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析 |
PEST分析 | 政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の観点から外部環境を分析 |
5フォース分析 | 新規参入の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、代替品の脅威、業界内の競合の5つの力を分析 |
これらのフレームワークを活用することで、自社の強みを活かし、弱みを補う戦略を立てられます。現状分析の結果は、ブランディング戦略の基盤となる重要な情報です。
2. 社内でブランディングの必要性を共有する
ブランディングの必要性や目的、期待される効果などを社内で共有し、理解を深めましょう。ブランディングを成功させるためには、経営者から現場の社員まで、全社一丸となって取り組む必要があるからです。
例えば、全社員を対象とした説明会を開催し、ブランディングの意義や進め方について説明することで、社内の意識を高めます。定期的な進捗報告会を開催し、ブランディングの状況を共有することも効果的です。
3. ブランドの提供価値を設定する
ブランドの提供価値とは、ブランドから得られる顧客側のメリットのことです。機能的価値(品質、性能など)、情緒的価値(効果の実感、商品に関わる体験など)、自己表現的価値(ステータス、所属感など)、社会的価値など、様々な角度から検討します。ブランドの提供価値は、ターゲット顧客のニーズに合致するものでなければなりません。
例えば、アウトドアウェアを販売する「パタゴニア」は、高品質なアウトドア用品という機能的価値に加え、環境保護という社会的価値を提供しています。アウトドアが好きな人は、自然環境に親しみを持っていることが多いです。関連性のある付加価値により、顧客を引きつけていると言えます。
4. ブランドアイデンティティを設定する
ブランドアイデンティティとは、「顧客にこう思ってほしい」という企業や商品に対する理想のイメージのことです。ブランドの提供価値の中から、特に押し出したい要素を選びます。顧客の持つブランドイメージとずれがないか、定期的な確認と改善が必要です。
5. ブランドコンセプトを決める
ブランドコンセプトは、ブランドの核となる価値観や個性を表す言葉です。ブランド提供価値とブランドアイデンティティを踏まえて、商品・サービスの魅力を短い言葉で表現します。
例えば、ナイキは、スポーツを通じて人々を励まし行動を促したいという思いから、「体ひとつあれば、誰もがアスリートだ」をブランドコンセプトに掲げています。「Just Do It.」という有名なキャッチコピーとともに、ブランディングを促進しました。ブランドコンセプトは、ブランディングの指針となる重要な要素なので、慎重に検討しなければなりません。
6. ブランド名やロゴを作成する
ブランド名やロゴは、ブランドを識別するための重要な要素です。ブランドコンセプトやブランドアイデンティティを反映し、顧客に強いインパクトを与えるものを目指します。
例えば、コカ・コーラのロゴは、赤と白の配色と独特の書体で、見ただけで弾けるような爽快感がイメージできます。ブランド名やロゴは、長期的に使用されるものなので、慎重に検討し、商標登録などの法的手続きも忘れずに行いましょう。
7. ブランドのタッチポイントを決める
タッチポイントとは、顧客がブランドと接触する機会や場所のことです。広告、ウェブサイト、SNS、店舗、パッケージなど、様々なタッチポイントがあり、ターゲットに合わせてしぼりこみます。
タッチポイントごとに、ブランドメッセージを一貫して伝えることが重要です。
8. 効果を測定する
ブランディングの成果を評価するには、ブランドエクイティを定期的に測定することが重要です。ブランドエクイティは、資産としてのブランドの価値のことで、ブランドの認知度やおすすめ度などで測ります。
例えば、アンケート調査やユーザーインタビューを年に1回程度実施し、ブランド認知率や購入意向率、ブランドロイヤリティの度合いを把握します。調査結果を分析し、課題点があれば改善策を講じましょう。
外部環境の変化に伴いブランド価値も変化するため、状況に応じてブランディング戦略の見直しが必要な場合もあります。
ブランディングを成功に導くポイント
ブランディングを成功に導くポイントは以下の通りです。
- ターゲット顧客のニーズを深く理解する
- 自社の独自性を活かしたブランドストーリーを構築する
- 従業員をブランドの体現者として育成する
1. ターゲット顧客のニーズを深く理解する
ブランディングを成功させるには、ターゲット顧客のニーズを深く理解することが不可欠です。単に自社の商品やサービスの特徴を訴求するだけでは不十分で、顧客がどのような価値を求めているのかを把握する必要があります。
例えば、市場調査やユーザーインタビューを通じて、顧客の潜在的なニーズや課題を明らかにし、それらを解決するためのコンテンツを発信するのも手です。顧客の視点に立ち、共感を得られるブランドメッセージを発信することで、強いブランドロイヤリティを築けるでしょう。
効果的なブランド戦略を立てるためには、ターゲット顧客の理解が欠かせません。
2. 自社の独自性を活かしたブランドストーリーを構築する
ブランディングの成功には、ブランドストーリーの構築が重要です。ブランドストーリーとは、ブランドの価値を伝えるためのコンテンツのことで、ブランドが誕生したきっかけやこれまでの自社の歩みをストーリー仕立てにまとめたものです。他社にはない特徴や価値が具体的に伝わり、強いブランドイメージを確立できます。
自社の歴史や技術力、社会貢献活動など、差別化できる要素を洗い出し、ブランドの背景にある想いや価値観を伝えることが重要です。単なる商品の羅列ではなく、ストーリーを通じて顧客の共感を得るのです。
また、ブランドストーリーは自社の強みが明確になるという点で、従業員のモチベーションにもつながります。提供する商品やサービスの意義を再認識し、誇りを持ってブランドを体現できるでしょう。
3. 従業員をブランドの体現者として育成する
従業員をブランドの体現者として育成することは、ブランディングの成功に欠かせない要素です。
ブランドの価値を維持し、顧客に対して一貫したブランド体験を提供できるからです。
そのためには、社内研修や勉強会を通じて、ブランドの理念や目指す姿を従業員に浸透させる必要があります。従業員のブランドに対する理解と共感が深まれば、日々の業務の中でブランドの価値観を体現できるようになります。
社内の取り組みを強化し、従業員のブランドへの理解と共感を深められれば、ブランディングの成功に近づけるでしょう。
ブランディングの成功事例
ブランディングの成功事例を3つ紹介します。
- ブランディングで海外展開を成功に導く(株式会社クロス・クローバー・ジャパン)
- 海のない町でウナギのブランド化に成功(ニューフロンティア株式会社)
- リブランディングで売上アップへ(環境大善株式会社)
1. ブランディングで海外展開を成功に導く(株式会社クロス・クローバー・ジャパン)
株式会社クロス・クローバー・ジャパンのオリジナルブランド「nekozuki(ネコズキ)」では、ネコの困りごとを解決する商品を提供しています。海外展開にあたって、コンセプトを欧米の顧客にどのように理解してもらうかが課題となっていました。
そこで、ブランディングカンパニーの力も借りながら、欧米市場に向けたブランドアイデンティティの設定や、現地の方が理解しやすいブランドストーリーづくりに取り組みました。また、言葉がなくても伝わるようコンセプト動画やSNSを活用しています。
その結果、「nekozuki」は米国市場で差別化することに成功しました。今後は継続的なプロモーションを行いながら、海外のファン層のさらなる拡大が期待されています。
参考:中小企業庁「ミラサポplus」株式会社クロス・クローバー・ジャパン
2. 海のない町でウナギのブランド化に成功(ニューフロンティア株式会社)
福島県田村市のニューフロンティア株式会社は、東日本大震災と原発事故で活気を失った地域の復興を後押しするため、2015年にウナギの陸上養殖事業を開始しました。
同社は、海のない山間部の町で「育てる漁業」を実践し、あぶくま山系の清らかな伏流水を使ってウナギを稚魚から育てることを試みます。臭みがなく食べやすい高品質なウナギ「福うなぎ」を生産でき、ブランド化に成功しました。
年間2〜3トンの養殖を実現し、地元の有名旅館やふるさと納税の返礼品など、取引先を拡大しています。福うなぎを使った「うなおむすび」は、福うなぎのブランド力を象徴する商品に成長し、地域の新たな特産品として確立されつつあります。
参考:中小企業庁「ミラサポplus」ニューフロンティア株式会社
3. リブランディングで売上アップへ(環境大善株式会社)
環境大善株式会社は、牛のし尿を再利用した消臭液や土壌改良材の製造・販売を行っています。事業承継を機に、ターゲット層の若返りを図るために、リブランディングを実施しました。
リブランディングでは、ブランドコンセプトを確立し、まずは社内での共有を行いました。それとともに社名変更やシンボルマークの作成、商品パッケージの変更なども実施し、社外へブランドを発信します。
結果、若年層へのアプローチが奏功し、百貨店や雑貨店への販路拡大につながりました。また、企業イメージの刷新により、利益率の向上や人材獲得にも寄与しています。
まとめ|ブランディングを行い顧客に選ばれる存在になろう
ブランディングは、自社の強みや独自性を活かして、他社との差別化を図るための重要な戦略です。ターゲット顧客のニーズを深く理解し、共感を得られるブランドストーリーを構築することが成功の鍵となります。また、従業員をブランドの体現者として育成し、一貫したブランド体験を提供することも欠かせません。
事例で紹介したような取り組みを参考に、自社のブランディング戦略を立案・実行し、顧客に選ばれるブランドへと成長させましょう。
Meltwaterは、効果的なブランド戦略の策定と実行を支援します。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム