近年では、性の多様化が進み、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)をはじめとする性的マイノリティへの差別解消の取り組みが求められています。
日本でも性の多様性に関する取り組みが進みつつあります。2023年6月23日には、性的マイノリティへの理解を促す「LGBT理解増進法案」が施行されました。
とはいえ、日本ではまだ「同性婚」を認める制度や、差別を禁止する法律が定められておらず、各国に後れを取っているのが実態です。
このように、LGBTの権利は、国や地域によって異なる扱いを受けています。
【6要素で比較】LGBT先進国 VS 日本
今回は、国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA World)の調査をもとに、LGBT先進国15カ国でLGBTの受け入れがどのくらい進んでいるかをインフォグラフィックスにまとめました。
上記のインフォグラフィックは、各国のLGBTへの法整備の充実度を示しています。
参考:ilgadatabase
ILGA World Monitorは、ILGA Worldが作成した自動ソース集約ツールです。
SOGIESC(性的指向、性自認、性別表現及び性特性)に関連する世界中のコンテンツを収集・翻訳し・分類し、ラベル付けを行っています。
本ツールは、メディア、市民団体、国家人権機関(NHRIs)、学術機関、批判的な組織や団体、法的データベース、政府のウェブサイトなど、70言語におよぶ日々20,000以上のソースを追跡しています。
それぞれLGBT保護の観点で重要な6つの領域を、各0〜4点満点で評価しています。
6つの領域は一番上の紫の部分から時計回りに、「憲法的保護」「商品・サービス」「健康」「雇用」「住居」です。これらに関する差別が法的に禁止されていると点数になり、点数が高いほど、LGBTへの取り組みが進んでいる国であることを示します。
最高得点は、スペイン、デンマーク、オランダの20点です。一方、今回は世界的にLGBTの受け入れに積極的といわれる国と日本を比較してみました。
法整備という視点で見ると、世界で最もLGBTの受け入れが進んでいると言われている国でも、憲法レベルでの権利の保証は見られず、法律的な保護も部分的にしか存在しないのが分かります。
LGBT法比較インフォグラフィックスの見方
国ごとのLGBTの差別受け入れ体制を見ていく前に、まずインフォグラフィックスの見方を解説します。
国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA World)の調査では、LGBT保護について、各国の状況を6つの重要領域に分けて比較しています。
重要領域 | 意味 |
---|---|
憲法的保護 | 各国の憲法において、LGBTへの差別を禁止する条文や保護規定があるか |
商品・サービス | LGBTに対する商品・サービス提供の差別を禁止する法律や規制があるか |
健康 | LGBTに対する医療・健康サービス提供の差別を禁止する法律や規制があるか |
教育 | LGBTへの教育における差別を禁止する法律や規制があるか |
雇用 | LGBTへの教育における差別を禁止する法律や規制があるか |
住居 | LGBTへの住居における差別を禁止する法律や規制があるか |
これらの6つの項目を、さらに以下の4つのカテゴリーに分けて評価します。
カテゴリー | 意味 |
---|---|
Sexual Orientation(性的趣向) | 自分がどのような性別の人に、性的魅力を感じ、興味や愛情を抱くか |
Gender Identity(性同一性) | 自分がどのような性別に所属し、自分自身をどう捉え、感じるか |
Gender Expression(ジェンダー表現) | 自分を外部にどのように表現するか(服装、髪型、化粧、言語、行動など) |
Sex Characteristics(生物学的性的特徴) | 自分の身体的な性別の特徴や生殖器の構造など |
ILGAの規定と評価に基づき、「各領域について、各国が上記の全4つのカテゴリーの中で法的に明文化しているカテゴリーの数」をそのままスコア化し、レーダーチャート上で示します。
- 0:どの要素も法的な明文としては存在しない
- 1:1つの要素が法的に明文化されている
- 2:2つの要素が法的に明文化されている
- 3:3つの要素が法的に明文化されている
- 4:4つの要素がすべて法的に明文化されている
例えば、「教育」の領域において、ILGAによれば、日本は「SO(性的趣向)」および「GI(性同一性)」のカテゴリーにおいて一部法律で保護されているものの、全面的に保証されている訳ではありません。
また、「GE(ジェンダー表現)」および「SC(生物学的性的特徴)」のカテゴリーについては法的な明記が存在しないとされています。よって教育の領域のスコアは「0」となります。
一方、スペインでは、「SO(性的趣向)」、「GI(性同一性)」、「GE(ジェンダー表現)」、「SC(生物学的性的特徴)」の4つ全てのカテゴリーが法的に保護されていると表記されているため、スコアは「4」となります。
各国のレーダーチャートの中央にある数字は、各領域のスコアを全て足した総合点になります。
ただし、ILGAが提供する「法的枠組み」に関連する18の領域に関するデータの中から、今回の調査でMeltwaterが注目した6つの領域のみを考慮した点数です。
15カ国のLGBT受け入れの実態を解説
ここでは、本調査で使用した6つの重要領域のトータルスコアが高い順に、各国でのLGBT法の整備や受け入れの実態を解説していきます。
国 | トータルスコア |
---|---|
スペイン、デンマーク、オランダ | 格20 |
フィンランド | 18 |
スウェーデン | 16 |
ノルウェー、カナダ | 各15 |
フランス、ドイツ | 各10 |
アイスランド | 8 |
イギリス | 5 |
イギリス | 5 |
イギリス | 5 |
イギリス | 5 |
アメリカ | 2 |
アメリカ | 2 |
スイス、イタリア | 各1 |
日本、その他 | 0点1 |
スペイン
スペインは、「憲法的保護」を除くすべての領域において、4(すべて考慮されている)を獲得しています。
スペインは2005年、世界で3番目(カトリック教国では初)に同性婚が法的に認められました。
さらに、2007年には、民事登録の性別と名前を変更できる法律を可決。手術要件なしに戸籍記載変更登録を認めるなど、LGBTの権利保護に積極的に取り組み、他国を先導しています。
デンマーク
デンマークは、スペインと同じく「憲法的保護」を除くすべての領域において、4を獲得しています。
デンマークでは、さかのぼること1989年、同性カップルに結婚とほとんど同じ権利が認められる「登録パートナーシップ法」が世界で初めて導入されました。2012年には、法律上での同性婚が認められています。
現在でも、デンマーク人の多くには性の多様性を受け入れるマインドが備わっており、まさにLGBT先進国だと言えます。
オランダ
スペインとデンマークに続き、オランダも20ポイントを獲得したLGBT先進国です。
オランダは、世界で初めて法的に同性婚が認められた国です。同性愛者への差別も法律で禁止されています。
2001年には同性カップルに養子縁組の権利も認められました。
また、アムステルダム市内では毎年「ゲイ・プライド」というイベントが開催。世界各国から35万人以上が訪れる、国際的なLGBTイベントとして知られています。
フィンランド
フィンランドも、スコア18と世界的にLGBTの取り組みが進んでいる国の1つです。
過去には、同性愛は犯罪や疾病として見なされていたこともありましたが、1995年以降は性的指向にもとづく差別は禁止されています。
2000年代には、「登録パートナーシップ」や「トランスジェンダーの性別認知」に関する法律も施行されました。
さらに2004年には、年齢や性別、信念、障害など、いかなる理由の直接的・間接的な差別および嫌がらせを禁止する「差別禁止法」も成立しています。
スウェーデン
スウェーデンは、北欧で最も早い1979年に同性愛を疾病リストから外した国です。
2003年には、同性カップルが養子縁組をする権利、2009年には同性婚が認められています。さらに、性の多様性について学校での教育が義務づけられています。
ノルウェー
ノルウェーも、LGBTへの配慮が世界的に進んでいる国の1つ。2004年には住宅法の差別禁止条項に、「性的指向」「性自認」「性別の表現」が加えられるなど、さまざまな面でLGBTへの差別廃止に取り組んでいます。
カナダ
多様性への寛容さで知られるカナダは、LGBTに関しても受け入れるマインドが根付いています。2005年には、世界で4番目に同性婚が合法化されました。納税や養子縁組、ファミリークラスでのカナダ永住権申請など、異性カップルに認められていることが同性カップルにも広く認められています。
フランス
フランスには、宗教の影響で同性同士の性的関係は犯罪と見なされていた過去があります。
しかし、2013年には同性婚が認められました。フランスでは、今でもLGBTの人々が直面している差別をなくすべく、NGOによってLGBTへの支援が活発に行われています。
ドイツ
ドイツでは、2006年に「一般平等取扱法」で性的指向および性自認を理由とした差別が禁止され、2017年に同性婚が導入されました。
アイスランド
アイスランドは8ポイントで、北欧の中ではLGBTの受け入れが遅れていることがわかります。
とはいえ、商品・サービスの提供や教育、職場など幅広い領域で、性的指向や性的特徴などにもとづく差別が禁止され、2010年には同性婚も合法化されています。
イギリス
イギリスは、1999年のOECD(経済協力開発機構)調査でLGBT関連の法整備達成度ランキングで最下位を記録して以降、LGBTに対する取り組みが進んでいます。2010年には「平等法」によって性的指向や性別などを理由とした差別が禁止されました。なお、2013年には同性婚法も制定されています。
アメリカ
アメリカは、LGBTの受け入れにおいて2ポイントでした。2021年、LGBT差別を禁止する平等法が可決されたものの、採決にはまだ至っていません。
同性婚については進展があり、2022年に「結婚尊重法案」が成立しました。これまでも連邦最高裁により事実上同性婚が認められていましたが、結婚尊重法案により同性婚だけでなく異人種間の結婚も連邦レベルで合法化されたことが画期的です。
しかし、差別意識が完全になくなったわけではなく、「宗教上の理由から自由を損なう」といった保守派の主張や「男性のトランスジェンダーが、女性選手としてスポーツ競技に参加する権利を認めるのは不公平」といった批判もまだ見られます。
スイス
スイスは平等な権利問題に関するランキングで下位に位置する国の1つ。しかし、2021年9月には、同性婚の合法化をめぐる国民投票が行われ、約64%が合法化を支持しました。この結果、西ヨーロッパ諸国に遅れをとる形にはなったものの、2022年に同性婚が合法化されています。
イタリア
ヨーロッパはLGBT先進地域ですが、イタリアはわずか1ポイントで14位という結果でした。
欧州基本権機関のレポートでは、イタリアのLGBTQの権利に関する差別指標が19%と高い指標を示しました。イタリアには性差別を禁止する法律がまだありません。
これには、同性愛を逸脱した行為とするカトリックの教えが関係していると考えられます。イタリアで自身をカトリック教徒と認識している人は、87%以上です(2023年6月現在)。
日本
日本国憲法には、差別の保護根拠として「性的指向」「性自認」「性表現」「性的特徴」の記載はありません。
また、LGBTへの差別を禁止する法律もなければ、同性婚も認められていない状態です。
日本には宗教的にLGBTを差別する文化や習慣はありません。しかしながら、LGBTに対する認識がまだ世界と比較して低く、法整備も遅れているという実情があります。
G7のLGBT受け入れは?傾向解説
以下は、G7(先進国首脳会議)参加7カ国をトータルスコアが高い順に並べて比較した表です。
順位 | G7 | トータルスコア |
---|---|---|
1 | カナダ | 15 |
2 -3 | フランス、ドイツ | 10 |
4 | イギリス | 5 |
5 | アメリカ | 2 |
6 | イタリア | 1 |
7 | 日本 | 0 |
7カ国の中で、LGBTの受け入れが進んでいるのは、カナダとフランス、ドイツの3カ国です。
イギリス、アメリカ、イタリア、日本の4カ国は、G7に入っていない国と比べても低い水準にあります。
また、各国それぞれが法律で明確に性的趣向による差別やLGBTへの差別を禁止している一方、日本は「理解推進」に留まっています。
また、G7の中では日本だけが同性婚の合法化に至っておらず、今回の国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA World)の調査をもとにしたランキングでは、先進国の中で最下位です。
LGBTに関するトレンド分析
ここからは、AIを活用したメディアモニタリングを行うグローバル企業「Meltwater」の調査データをもとに、日本におけるLGBTに関するトレンドを分析していきます。
- LGBTについての単語の発言数の変移
- LGBTに関するセンチメント(感情)分析
- LGBTの共起ワードランキング
それぞれ詳しく見ていきましょう。
日本におけるLGBT発言数の変遷
以下のグラフは、日本におけるLGBTの発言数(X・YouTube・ブログなど)の変遷を示しています。
日本におけるLGBTの単語の発言数(X(Twitter)・YouTube・ブログなど)が急上昇したタイミングは以下の3つです。
- 2月18日:東洋経済にて「同性婚に慎重な岸田首相が「LGBT法」成立は急ぐ訳」が掲載
- 5月12日:LGBT法案を自民が修正案了承後、保守派に配慮し「性自認→性同一性」に
- 6月13日:LGBT法案の与党案の修正案が、衆院本会議で賛成多数で可に
日本では、LGBT法案の整備の進行に伴って、発言数が増えていることがわかります。
2023年、LGBT法案がどのように取り扱われ、可決が成立するか否かに多くの人が関心をもっていたと考えられます。
X(Twitter)におけるLGBTに関するセンチメント
以下のグラフは、日本国内でのX(Twitter)上のLGBTに関するセンチメント(感情)を分析し、ポジティブ、ネガティブ、中立の割合を示したものです。(Xのセンチメントとは、X上で指定したキーワードがメンションされている投稿に含まれる感情を内訳したもので、Meltwater独自の自然言語処理アルゴリズムに基づいています。)
この分析結果からは、LGBTに対する一般的な意見は中立的であることがわかります。
ネガティブな意見が一定数存在し、ポジティブな意見に関しては少ないことも見て取れます。
日本はLGBT法の整備では世界各国に遅れをとっているものの、反対意見やネガティブな意見が大多数であるといった事実は見られません。
LGBTの共起ワードランキング
以下は、Meltwaterの分析で判明した、日本の共起ワードランキングです。
共起ワードとは、X(Twitter)で特定のキーワード(今回は「LGBT」)と一緒に利用されやすい言葉のこと。
LGBTと一緒につぶやかれているキーワードを把握することで、日本におけるLGBTのトレンドを掴むことができます。
順位 | 共起ワード |
---|---|
1 | LGBT法案 |
2 | LGBT法 |
3 | 性自認 |
4 | 当事者 |
5 | トイレ |
6 | 女子トイレ |
7 | ネット |
8 | LGBT法案 |
9 | 同性婚 |
10 | 活動家 |
共起ワードランキングからは、 LGBT理解増進法案に興味を示している人が多いことがわかります。
「トイレ」「女子トイレ」というキーワードに関しては、女装男性における女子トイレ利用が報道され、危険性を指摘する声が相次いだことが原因だと考察できます。トランスジェンダーのトイレ利用については、性別を問わず利用できるトイレの導入など、取り組みが必要でしょう。
まとめ
今回は、LGBT先進国におけるLGBTに関連する法制度や、LGBT受け入れの現状を比較し、その違いを紹介しました。
世界各国のLGBT法整備の現状を比較すると、ヨーロッパが先進地域であることがわかります。中でも北欧はLGBT受け入れランキング上位に入っており、多様性への受け入れが根付いています。
日本国内では、東京都の渋谷区と世田谷区から始まった「同性パートナーシップ条例」など、自治体レベルでの取り組みは進んでいるものの、LGBT差別禁止や同性婚の法整備には至っていません。差別禁止法が国際社会でスタンダードになりつつある今、日本も他国の先例に倣い、今後さらなる取り組みが必要です。
この記事の監修者:
岡田敬子 (Meltwater Japan マーケティングマネージャー)
武蔵野美術大学卒。グラフィックデザイナー・B2C領域のマーケティングで17年の経験を積む。2022年よりMeltwater Japan株式会社にて日本市場のマーケティングを担当し、「データに基づく意思決定」を後押しするMeltwaterソリューションの認知度向上のための施策に従事。