あらゆる製品・サービスの機能性がコモディティ化した現代において、他社との競争に勝ち抜くには、顧客の多様なニーズに個別で応えていかなければなりません。そこで、パーソナライズという手法が活用できます。
この記事ではパーソナライズの概要やレコメンドなどとの違いを踏まえつつ、メリットや活用方法、注意点を解説します。企業におけるパーソナライズの成功事例も併せてご紹介します。
パーソナライズとは?
パーソナライズと従来のマーケティングとの違い
パーソナライズの重要性
BtoCとBtoBで求められるパーソナライズの違い
カスタマイズやレコメンド、ターゲティングとの違い
パーソナライズのメリット
パーソナライズの活用方法
パーソナライズに取り組む際の注意点
パーソナライズの成功事例
まとめ
パーソナライズとは?
パーソナライズ(Personalize)とは、顧客の属性や購買履歴などのデータを分析し、各個人に最適化された製品やサービス、情報を提供するマーケティング手法です。一例としては、インターネット上での検索履歴と関連性の高い広告やおすすめ動画を表示したり、購買履歴からレコメンド表示したり、位置情報からメルマガの配信内容を変えたりします。
パーソナライズは顧客の興味関心を踏まえたアプローチを実現できるため、購買や問い合わせなどのコンバージョンを得やすいという特長があります。
パーソナライズと従来のマーケティングとの違い
従来のマーケティングでは、顧客個人の属性などは考慮せず、不特定多数に対して画一的にアプローチする手法が一般的でした。この手法はマスマーケティングと呼ばれ、テレビCMをはじめとするマス広告や展示会などの施策が代表例として挙げられます。
マスマーケティングは一度に多数の顧客に対してアピールできるという強みがある一方で、製品・サービスに興味がない顧客にも情報を提供するため、費用対効果が低くなりやすいという難点があります。
パーソナライズでは、一度にたくさんの顧客に対してアプローチすることはできませんが、その分、顧客一人ひとりに最適化されたアプローチができるため、効果が期待できるのが特長です。
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パーソナライズの重要性
戦後から高度経済成長期においては、消費者が求める製品やサービスは共通していたため、マスマーケティングによるアプローチでも機能しました。
しかし現在はインターネットが普及し、興味のある情報を消費者が選べるようになりました。消費者ニーズは多様化し、一人ひとりに合ったアプローチが必要になってきたのです。また、あふれる情報の中から有益な情報を見分けるためにも、パーソナライズによる情報の絞り込みが必要になったともいえるでしょう。
AIや機械学習の活用が容易になり顧客のデータ分析がしやすくなったことで、パーソナライズに取り組む企業は増えてきました。パーソナライズをしていない企業は競争を勝ち抜くことが困難になるといえるでしょう。
BtoCとBtoBで求められるパーソナライズの違い
パーソナライズはBtoCとBtoBで活用されます。それぞれどういった活用がされるのかを確認しましょう。
BtoCにおけるパーソナライズ
BtoCでは、消費者個人の属性や傾向などを基にパーソナライズを実施し、購買や継続利用を促すことを目指します。
例えばスニーカーについて検索エンジンで調べていた消費者に対して、Webサイト上でスニーカーのディスプレイ広告を表示すれば、広告のクリック率を高め、購入に繋げられるでしょう。
また購入履歴などを基におすすめのコンテンツを表示させることで、さらなる継続利用を促すことが可能です。
BtoBにおけるパーソナライズ
BtoB領域の製品・サービスは、BtoCよりも顧客の購買検討期間が長いことが大きな違いです。そのため、購買検討フェーズに合わせて顧客に適切な情報提供をするために、パーソナライズが重宝されます。
例えばマーケティングオートメーション(MA)ツールを活用して、自社サイトへの訪問状況によっておすすめのコンテンツを変える方法があります。
また、自社サイトからホワイトペーパーをダウンロードした顧客に対しては、ニーズが顕在化しているためコンテンツなどではなく、営業担当者からのフォローアップや別のホワイトペーパーなどを案内することが有効です。
カスタマイズやレコメンド、ターゲティングとの違い
パーソナライズと類似する用語として、「カスタマイズ」「レコメンド」「ターゲティング」があります。それぞれの定義や違いについて押さえておきましょう。
用語 | 概要 |
---|---|
カスタマイズ | 顧客や消費者自身が、自分の興味のあるジャンルやほしい情報などを設定すること。 パーソナライズは企業側が消費者に合わせた最適な情報提供などを行う取り組みである点が異なる。 |
レコメンド | ECサイトなどにおいて、顧客の購買データや閲覧履歴などに基づき、おすすめの製品やサービスを紹介すること。 パーソナライズにおける具体的な施策の一つ。 |
ターゲティング | 年齢や価値観といった属性別に顧客をいくつかのグループに分け、その中から自社製品・サービスと親和性の高い顧客層を選び出すこと。 ターゲティングで選び出された顧客に対して、パーソナライズを行い、購買促進や顧客育成を実施する。 |
パーソナライズのメリット
パーソナライズに取り組むことで以下のようなメリットを得られます。
1. マーケティングの効率化
パーソナライズに取り組むことで、マーケティング活動全体の効率化や精度向上が期待できます。顧客データに基づいたアプローチを行うため、結果に繋がりにくい施策やアプローチを抑えることが可能です。
例えばアクセサリーに興味のない消費者にジュエリーの広告を表示したり、購買意欲が十分に高まっていない見込み顧客に商談を設定してしまったりすることを防ぐことができます。
購買意欲の高い顧客に対してリソースを集中的に充てられるのが最大のメリットです。
2. 新規顧客の獲得
パーソナライズは、新規顧客の獲得効果を高めます。自社サイトの閲覧履歴や行動などのデータを参照することで、購買の可能性が高い顧客を見極め、アプローチできるためです。
欲しいものがはっきり定まっていない潜在的な顧客に対しても、ディスプレイ広告などで認知を促せるのもパーソナライズの強みです。顧客の興味と関連する広告を自動的に出すことで、広告のクリックや自社サイトへの誘導などに繋げます。
早い段階で見込み顧客を囲い込めば、他社製品・サービスへと流れるのを防げるでしょう。
3. 長期的な顧客関係の構築
パーソナライズによって顧客からの信頼を得られ、良好な関係を構築できます。顧客が求める情報を適切なタイミングで提供することで、顧客の体験価値を高めるためです。
企業に対するロイヤルティやエンゲージメントが高まり、自社製品・サービスの継続利用に繋がれば、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値:顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益・価値)の最大化も期待できるでしょう。
パーソナライズの活用方法
ここでパーソナライズの具体的な活用方法をご紹介します。
1. Web広告
パーソナライズの代表的な活用方法の一つが、Web広告です。特に、ユーザーの興味と関連性のあるWeb広告のことを、パーソナライズド広告と言います。
GoogleやAmazonなどのWeb広告サービスでは、ユーザーの検索・閲覧履歴といったオンライン上に存在するデータに基づいて、パーソナライズド広告を配信できます。一般的な広告よりもクリック率やROAS(Return On Advertising Spend:広告費用対効果)などを高めやすいのが特長です。
実際、マーケティング支援事業を行う株式会社リチカが2022年に行った調査によると、「CMや広告を見たい」と回答した割合はわずか13%であるのに対し、「興味関心にあったクリエイティブなら必要」と答えた割合は39.4%に及びます。このことからも、ユーザーの興味に合わせたパーソナライズド広告の有効性を理解できるでしょう。
参考:【広告・CM意識調査】を実施「広告を見たい」はわずか13%、一方「興味関心にあったクリエイティブなら必要」は39.4% | 株式会社リチカのプレスリリース
2. メールマガジン
次に活用方法として挙げられるのはメールマガジンです。メール配信システムやマーケティングオートメーション(MA)などに蓄積された顧客情報から、メール内容や配信タイミングを最適化します。
例えば、問い合わせ履歴や顧客の業種、過去に開封したメール内容などを参照することで顧客の興味を探り出し、メールマガジンのコンテンツを調整します。
興味をひくタイトルの作成や配信頻度なども工夫し、開封率アップに繋げていきましょう。
3. ECサイト
ネットショッピングが楽しめるECサイトでは、レコメンド表示にパーソナライズが活用されています。
顧客の登録情報はもちろん、商品の検索・閲覧履歴や過去の購買データなど、ECサイトは顧客データが豊富です。また類似する他の顧客の傾向も、レコメンド表示の参考になります。
レコメンド表示で商品を絞り込むことで購買を促し、ECサイトによる売上向上が期待できます。
4. 動画
動画も、個々の顧客に合わせたパーソナライズド動画というものがあります。保険や金融などの業界でサービスの案内に活用されることが多く、顧客氏名を差し込んだり提案内容などを個別でカスタマイズしたりします。
パーソナライズド動画を活用することで、顧客に「自分のために作られた動画」だと感じてもらえるため、より集中して観てもらうことができ、動画内容の理解促進になるでしょう。
5. SNS
SNSではユーザーの閲覧履歴やフォローしているユーザーの傾向などを基に、おすすめの投稿が表示されます。
また、X(Twitter)やFacebook、Instagramなどはパーソナライズド広告の配信機能もあり、自社製品に興味を持ちそうな潜在顧客にアプローチできます。
SNS上ではユーザーが自主的に製品の紹介をしたり、パーソナライズド広告により自社アカウントのフォロワーが獲得できたりすることで、広告配信を続けなくても顧客との継続的な繋がりができるのがメリットです。
6. パーソナライズLP
LP(Landing Page:広告やURLをクリックした際に表示されるWebページ)にも、パーソナライズが応用できます。
クリック元の広告や流入キーワード、アクセスした地域といった条件に応じて、複数のLPを用意しておくことで、顧客に合わせて、訴求点を強調できます。LPからの問い合わせや購買に繋げやすくなるでしょう。
パーソナライズに取り組む際の注意点
続いてパーソナライズに取り組む際の注意点についてご紹介します。
1.過度なパーソナライズは顧客からの信頼を失う
過度にパーソナライズに取り組むと、購買や問い合わせなどの成果を得るどころか、顧客からの信頼を失う可能性があります。
何度も繰り返し同じコンテンツが表示されることで、その商品・サービスに対して「しつこい」といった、ネガティブな印象を持つ顧客も一定数出てくることが予測されます。またCookieを利用したパーソナライズ施策は、「Web上での行動を監視されている」といった印象を顧客に与えかねません。
パーソナライズの実施頻度や範囲に気をつけ、顧客に不快な思いをさせないようにしましょう。
2. 顧客のニーズに対応できない場合がある
パーソナライズしたからといって、必ずしも顧客ニーズに対応できるとは限りません。
パーソナライズでは顧客の閲覧履歴や行動データを基に、おすすめ商品紹介や情報提供を行いますが、あくまで参考にしているのは過去のデータです。企業がアプローチした時点でニーズが変わっていたら、顧客が望んでいる情報を訴求できていない可能性があるのです。
興味がないおすすめ商品は顧客側で削除できるようにするなど、タイムリーな顧客ニーズを把握できるようにしておきましょう。
3. 多様なコンテンツが必要になる
パーソナライズは顧客それぞれに最適化したアプローチを行うため、購買や問い合わせといった行動に繋げやすい反面、手間とコストがかかります。顧客データの分析はもちろん、提供するコンテンツの設計や制作も工数が必要です。
マーケティングに割けるリソースが不足している企業では、パーソナライズによる施策展開が難しい可能性があるでしょう。
パーソナライズの成功事例
最後にパーソナライズの成功事例として、以下の3社の事例をご紹介します。
1. Amazon
大手ECサイトを運営するAmazonは、パーソナライズの仕組みを取り入れたレコメンド機能により、顧客の購買意欲の醸成を図っています。購買履歴や検索・閲覧履歴、購入頻度などの顧客情報に加え、他の顧客の購買傾向なども活用されています。
レコメンドを表示するタイミングもポイントです。例えば特定商品をカートに入れると、カート確認画面で「あなたにイチオシ」「カートと合わせる」など関連商品が表示され、さらなる購入を促すのです。
閲覧履歴やおすすめ表示から興味のない商品を削除することもでき、顧客にとっての使いやすさも取り入れられています。
2. 株式会社エムアイカード
株式会社エムアイカードは、自社のクレジットカード会員向けのサイト運用において、パーソナライズを活用しています。
会員の性別や年齢、利用月額などによって細かくセグメント(特定の共通属性を持つ顧客グループ)を分け、それぞれに最適化されたコンテンツを提供しています。
また、「どのようなサービス名が印象に残るか」などの課題に対して、2つの案を比較検証するABテストを実施することで、より顧客目線のサイトに近づけました。
こうした取り組みにより、各コンテンツやキャンペーンからのコンバージョン率を改善するなど、着実に成果を挙げています。
参考:クリエイティブ訴求の表現を変えただけでCVR30%改善を記録!〜エムアイカードのABテスト事例〜 - DLPO株式会社
3. 株式会社関東製作所
金型やプラスチック成形などものづくりのメーカーである株式会社関東製作所は、Webサイト運営においてパーソナライズに取り組みました。
カスタマージャーニーを設計することで、購買検討フェーズごとのニーズや状況に合わせて最適なコンテンツを配信したのです。
また、各コンテンツにポップアップを配置し、関連性の高い他のコンテンツへと誘導することで、年間3件だった新規問い合わせを2年後の2022年には350件超にまで増加させました。
カスタマージャーニーを作り込むことでBtoBのパーソナライズを実現した好事例といえるでしょう。
参考:ポップアップ機能をフル活用!マーケティング未経験の「1人マーケター」が、年間の新規問い合わせ件数約100件を350件超に増加させるまで - マーケティングオートメーションツール SATORI
まとめ
顧客ニーズの多様化が進み、一人ひとりのニーズに合わせた情報提供やアプローチを実現できるパーソナライズは、マーケティング活動にとって不可欠な取り組みといえます。
注意点は、過度なパーソナライズにならないようにすることです。顧客の視点に立って工夫することで、顧客のネガティブな反応を避けられるでしょう。
ぜひこの記事を参考にパーソナライズを応用したマーケティング活動に取り組んでいただければ幸いです。
この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。