国内市場の競争激化により、多くの企業が海外に新たな成長の機会を見出すようになっています。越境ECは海外市場への進出を可能にする有力な選択肢のひとつです。
今回の記事では、越境ECの定義・市場規模・メリット・デメリットについて詳しくまとめました。さらに、越境ECを始める基本的な流れや成功させるためのポイントについてもわかりやすく解説します。
本記事を読めば越境ECの全体像を把握し、自社ビジネスへの導入を検討するための基礎知識が得られます。マーケティング戦略を立て、海外市場への第一歩を踏み出しましょう。
越境ECとは?
越境ECの市場規模
越境ECのメリット・デメリット
越境ECを始める基本の流れ
越境ECを始める方法
越境ECを成功させるためのポイント
市場がこれからも拡大する越境ECで安定した売上を実現しよう!
越境ECとは?
越境ECとは国境を超えて行われる電子商取引(EC)で、日本国内の商品を海外の消費者に販売するビジネスモデルです。オンラインショップで海外向けに販売を行います。
販路を海外に拡大することで、海外市場で日本製品のファンを獲得することができます。日本国内にいながらにして行えるため、現地で店舗を持つよりもコストと手間を省けます。
越境ECの成功にはターゲット市場の選定が重要です。商品の需要があるかどうか、現地の文化的側面から販売に適した商品かなどを考慮します。さらに、言語・決済手段・物流など現地の事情にあわせた対応が求められます。
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模は拡大を続けています。世界における市場規模の現状と今後について見ていきましょう。
越境ECの市場規模は増加傾向
世界の越境EC市場は急速な成長が見込まれています。2021年は7,850億ドルでしたが2030年には7兆9,380億ドルに達すると考えられ、年間平均成長率は約26.2%にもなります。
今後はAI技術を用いた自動化などによってスマートな物流システムが構築され、より迅速で低コストな配送が実現するでしょう。
参考:出典:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」
日本・米国・中国3か国間の越境EC市場規模
日米中3か国間の越境ECの市場規模(2022年度)を、以下の表にまとめました。
出典:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」
国家間の取引額はいずれも前年度を上回っています。とくに中国は越境EC市場において圧倒的な存在感を示しており、日米経由の越境ECの総市場規模が5兆68億円に達しました。
中国の消費者が日本から購入した額は2兆2,569億円で、米国の消費者が日本から購入した額の1兆3,056億円を上回ります。また、中国のEC化率(インターネットを介した売買)は45.3%と世界トップです。これらのことからも、中国は越境ECビジネスの対象国として重要な位置を占めていることがわかります。
越境ECのメリット・デメリット
越境ECには、いくつかのメリットとデメリットがあります。それぞれをしっかり把握し、成功に向けた適切な準備を行いましょう。
越境ECのメリット
越境ECのメリットは、以下のとおりです。
越境ECは商圏が世界中に広がるため、売上を大幅に拡大できる可能性があるのが大きなメリットです。特定の市場に依存しないビジネスモデルを構築できます。とくに円安のときは外貨で日本円のものが購入しやすくなるため、利益が上がる可能性があります。
また、実店舗を海外に構えるのではなくオンラインショップを通しての販売のため、コストを抑えて販路を広げられる点も魅力です。
越境ECのデメリット
越境ECのデメリットは、以下のとおりです。
海外への配送コストが国内より高いため、まとめ売りできない価格の低い商品の取引には向いていません。配送時間もかかるため、梱包にも工夫が必要でしょう。
また、販売禁止の商品や関税など、輸送ルールを守ることが必須です。現地の配送環境や言語、そして決済手段に応じた対策も求められます。
さらに、為替変動による利益減少リスクも考慮し、リスクヘッジを行わなければなりません。
越境ECを始める基本の流れ
越境ECを始める際は、以下の3つのステップを踏みます。
基本的な流れを理解し、スムーズな越境EC展開を目指しましょう。
ターゲットと商品の設定
越境ECを始めるにはターゲット市場のニーズや競合状況を分析し、需要が見込める商品を選ぶのが大切です。
ターゲット市場をしぼりこむには、3C分析を行うのが方法のひとつです。Customer(顧客・市場のニーズ)・Competitor(競合他社の動向)・Company(自社の強み)を把握し、市場環境を分析します。
ターゲットとなる国が設定できたら、適切な商品を選びます。現地の法律や規制を確認し、商品の輸出入に問題がないかをあらかじめ確認しておきましょう。
越境ECサイトの構築
ECサイトを作るには、「独自構築」か「ECモールへの出店」という2つの方法があります。ECモールとは既存のプラットフォームのことで、Amazonや楽天市場などのショッピングサイトを指します。海外のECモールだけでなく、日本国内のECモールから海外向けに販売することも可能です。
それぞれのメリット・デメリットを以下の表にまとめました。
構築方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
独自構築 | ・デザインや機能の自由度が高い ・顧客データ管理ができる | ・初期費用と時間が必要 ・技術的知識が必要 ・ECサイトの質により集客力が左右される |
ECモールへの出店 | ・ECモール自体の集客力を活かせる ・技術的な知識が不要 | ・手数料や出店料が発生 ・カスタマイズに制限がある ・閲覧できる顧客情報が制限されている |
フルスクラッチはすべてを自社で構築するため、コストがかかる分カスタマイズ性が高いのが特徴です。手軽に構築したい場合はASP型がおすすめです。既存のデザインやシステムを必要に応じて付け足すだけで、ECサイトを作ることができます。
集客
ECサイトに集客するには、商品の品質・特徴を押さえたうえでベネフィットや効果をわかりやすく伝えることが大切です。
集客に効果的なWebマーケティングには、以下のような方法があります。
- インターネット広告による宣伝
- インバウンドマーケティング
(コンテンツやメールマガジンなどで消費者の自発的な関心を引く)
- アクセス解析
(消費者がサイトにたどりついた経路やサイトへの訪問頻度などを調べ、消費者のニーズを知る)
中でもインバウンドマーケティングは、広告よりも一般的な方法となってきています。主なインバウンドマーケティングを、以下の表にまとめました。
越境ECを始める方法
越境ECを始める方法について、具体的に解説します。
- 海外のECモールに出店する
- 海外対応のECモールに出店する
- 独自のECサイトを構築する
- 現地法人を設立する
どの方法が自社に適切かを、それぞれの特徴から十分に検討しましょう。
海外のECモールに出店する
ECモールとは、オンライン版のショッピングセンターです。ひとつのサイトにさまざまな店の商品が販売されています。日本国内では楽天市場などが該当し、海外ではebay(アメリカ)や天猫国際(中国)などがあります。
ECモールは知名度があるため集客力が強く、海外のECモールを利用すれば現地の多くの消費者にアプローチできるでしょう。ECモールでは運営サポートが提供されるケースが多く、運営ノウハウがなくても出店できるのも大きなメリットです。
一方、出店費用が必要になり、独自のECサイトよりも販売手数料などがかかります。また、店舗の独自性が出しにくいため、他店舗と価格競争が起きやすいこともデメリットです。
海外対応のECモールに出店する
海外対応のECモールとは、日本国内のECモールで海外に対応しているものを指します。Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピング(ストアによる)などです。
海外モールと同様に、販売手数料が割高になったりモールの規定や条件を満たす必要があったりする一方、日本語で出店でき手続きしやすいことがメリットです。初期費用も、海外のECモールへの出店より抑えられる場合があります。
独自のECサイトを構築する
独自のECサイトを構築する場合は、自社のブランドやビジョンにあわせたデザインや機能を自由に設定できます。独自のドメインの使用や顧客データの自社管理ができるのも大きな魅力です。
一方、設定が自由な分、初期費用や運用コストがかかり、サイト構築に関する専門知識も必要です。ECモールのように初めからサイトの知名度があるわけではないため、集客も自社で行わなければなりません。
独自のECサイトを構築すると一言で言っても、方法は以下のとおりさまざまです。
カスタマイズ性が上がるほど必要なコストや知識も増えます。自社の規模や人材にあわせて構築法を選びましょう。
ECサイト 構築方法 | 特徴 |
---|---|
フルスクラッチ | システムやソフトウェアをゼロから開発し、完全にオリジナルのECサイトを構築する方法。膨大なコストがかかるため、資金のある企業向け。 |
パッケージ型 | あらかじめ注文管理や集客などの機能がついており、システムをゼロから構築することなくオリジナル性が出せる。中・大企業向け。 |
オープンソース | コードが無償で公開されたソフトウェアで、自由に利用したり改変したりできる。不正プログラムにもすぐ対応できる。中堅企業向け。 |
ASP型 | あらかじめ用意された機能を借りて、クラウド上でECサイトを構築する方法。初期費用や月額費用を抑えられる。中小企業向け。 |
現地法人を設立する
現地法人を設立し、現地のECモールに出店するという方法もあります。現地の消費者に直接アプローチできるため、知名度を上げたい企業にとってはメリットです。また、現地の賃金体系で人材を雇用できるため、国によっては人件費を抑えられます。
一方、現地法人の設立には現地の法律に従った登記や税務処理が必要で、相当の手間がかかります。まずは日本国内から越境ECにチャレンジしてみて、規模が拡大してきたら法人設立を検討しても良いでしょう。
越境ECを成功させるためのポイント
越境ECを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
- 物流体制を整備する
- 適切な決済方法を導入する
- 多言語に対応する
成功のためのポイントを押さえ、グローバル市場での競争力を高めましょう。
物流体制を整備する
信頼性の高い物流体制は顧客満足度に直結するため、整備が不可欠です。
配送トラブルを防ぐための方法を、以下の表にまとめました。
配送トラブルを防ぐ方法 | 概要 |
---|---|
複数の配送業者を利用 | 国際情勢の変化などによるリスクを分散して配送の遅延を防ぐ |
適切な梱包材の使用 | 商品破損のリスクを減らす |
正確な書類作成、情報の共有、輸入通関・保税システムの利用など | 通関での遅延を防ぐ |
返品サービスの利用 | 返品対応の負担を軽減する |
他にも物流業務を外部に委託したり、現地に近い倉庫から発送したりする方法もあります。
適切な決済方法を導入する
越境ECで決済の利便性を向上させるためには、販売する国や地域ごとへの対応が求められます。たとえば、中国ではAlipayやWeChat Payが主流であり、米国ではクレジットカードやPayPalが一般的です。
以下のように多様な決済手段を用意しておけば、カートに商品を入れたまま購入に至らない「カゴ落ち」を防げます。
- クレジットカード
- デビットカード
- PayPal
- 銀聯(ぎんれん)カード
- Alipay
- WeChat Pay
- Stripe
- ネットバンキング
多言語に対応する
越境ECを成功させるには、ECサイトからの離脱を防ぐためにも多言語対応が重要です。
一般的な翻訳方法を以下の表にまとめました。
翻訳方法 | 概要 |
---|---|
翻訳専門業者に依頼 | プロの翻訳者が高品質な翻訳を提供 |
フリーランスの翻訳者に依頼 | コストを抑えつつ質の高い翻訳を得られる可能性がある |
自社で翻訳 | コストを抑えられるが質は社員の言語能力に依存する |
翻訳ツールを利用 | 実装すれば自動翻訳も可能で人手がかからないが、細かいニュアンスは伝わりにくい |
商品紹介は自動翻訳、発送方法などの説明は翻訳者に依頼するなど、ページやコストに応じて使い分けるのも方法のひとつです。現地の文化的背景も考慮しながら表現に気をつけ、顧客との関係性強化に努めましょう。
市場がこれからも拡大する越境ECで安定した売上を実現しよう!
越境ECは国境を超えた電子商取引を指す言葉で、世界的に市場規模が急拡大しています。
越境ECには日本製品の信頼性を活かして売上を拡大できる可能性があります。成功させるには適切なターゲット市場の選定と、言語・決済方法・物流など現地事情にあわせた対応が重要です。
適切なマーケティング戦略を立て、グローバル市場での競争力を高めて安定した売上を実現しましょう。
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。