世界的な気候変動や人口増加により、食料が不足する事態が起きています。少子化が進んでいる国では、農業の後継者不足や飲食店の従業員不足も食に関する課題となっています。
解決策のひとつが、最先端技術を活用することです。フードテックは持続可能な食料供給システムを構築し、私たちの食の未来を明るく変える可能性を秘めています。
今回の記事では、フードテックの定義・市場規模・具体的な活用事例まで包括的にまとめました。フードテックが私たちの食生活や環境に与える影響について、記事を通じて理解を深めましょう。
フードテックの定義とは?
フードテックが注目される背景とポイント
日本ではフードテック官民協議会が発足される
フードテックが活用される分野
フードテックの活用例
フードテックが切り拓く未来の食産業には可能性が秘められている
フードテックの定義とは?
フードテックとは「Food」と「Technology」を組み合わせた造語で、食に関するさまざまな課題を解決する最先端技術のことです。食材の生産・加工・流通・消費の過程でAI・IoT・バイオテクノロジーなどを活用し、効率化や品質向上を実現します。
たとえば、以下のようにフードテックは応用され、持続可能な食料供給システムの構築に貢献しています。
フードテックが注目される背景とポイント
2020年に24兆円だったフードテックの世界市場規模は、2050年までに約280兆円に達するとの見通しです(MRI 三菱総合研究所)。フードテックが注目される背景とポイントは、以下のとおりです。
食に関して将来的にどのような問題が発生するのかを知り、フードテックの必要性について理解を深めましょう。
食料不足・飢餓問題
世界的な食料不足と飢餓問題の深刻化は、フードテックが注目される大きな要因となっています。2021年時点では約8億2,800万人が飢餓状態にあります。
2024年時点で約82億人の世界人口は、2050年には約97億人になると予測されており、食料の需要に生産が追いつかない状況です。くわえて、気候変動により農作物が育たなかったり、利用できる農地が減少したりすることも食料不足に追い打ちをかけています。
培養肉や環境に強い農作物の開発のために、フードテックが必要とされています。
参考:公益社団法人 日本WHO協会「国連報告 : 世界の飢餓人口は2021年に 8 億 2800 万人に増加」,国際連合広報センター「世界の人口は今世紀中にピークを迎える、と国連が予測」,
SDGsの広がり
2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の広がりは、フードテック発展の重要な推進力となっています。SDGsは貧困・気候変動・平等などの問題を解決し、持続可能で平和な社会を実現するための国際的な17個の目標です。とくに、以下のような目標達成に向けて、フードテックの活用が求められています。
- 目標2「飢餓をゼロに」
- 目標12「つくる責任 つかう責任」
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」
たとえば、12番目の目標「つくる責任 つかう責任」では、2030年までに世界全体で食料廃棄の半減が掲げられています。AIで需要を予測して食品を作りすぎないようにすることは、フードテックの取り組みの一例です。
13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」には、フードテックによる植物由来の代替肉や培養肉の開発が効果的です。通常の畜産にかかる水の量を格段に減らす上、温暖化の一因とされている家畜のゲップも発生しません。
食の安全に関する問題
食の安全の確保は生活にとって大きな問題であり、フードテック技術の重要な活用分野のひとつです。たとえば、世界では毎年、約6億人が汚染された食品を食べて病気になり42万人が死亡しています。
フードテックは食品の傷みや異物を見分けることにも応用できます。長期間の冷凍保存技術を活用すれば、安全な食品がいつでも食べられるようになります。
参考:WHO「Food safety」
食の多様化
現代の食生活は、宗教的な理由・健康志向・環境保護・グローバル化などの観点から、多様な食のニーズが生まれています。
たとえば、環境保護への関心が高まるなかで、動物性食品を避けるヴィーガンやベジタリアンになる人もいます。イスラム教では、豚肉や豚由来の製品やアルコール類が禁じられているのは有名です。
フードテックが開発した代替肉は、植物由来でありながらタンパク質が含まれており、肉が食べられない人にとって重要な栄養源となります。
日本ではフードテック官民協議会が発足される
フードテック官民協議会は、産学官(企業・大学・政府)連携で2020年10月に設立されました。食料安全保障の強化や資源を無駄にしない食料供給システムの構築を推進しています。
フードテック官民協議会で行っている具体的な取り組みの一例は、以下のとおりです。
- フードテックの提案・報告会の定期開催
- 国内外のフードテックに関する情報の発信
- コミュニティ活動による会員同士の事業連携
参考:フードテック官民協議会「フードテック官民協議会 FOODTECH」
フードテックが活用される分野
フードテックは以下のような分野で活用されます。
どのような分野で活用されるのかを知り、フードテックの可能性について知識を深めましょう。
農業分野
フードテックはスマート農業に活用され、農作業を自動化したり効率化したりしています。以下の表は活用例です。
テクノロジー | 概要 |
---|---|
センサーw | 温度・湿度・水分・土壌などのデータを分析し、最適な環境に自動調整 |
ドローン | 農薬散布の効率化 |
自動運転トラクター | 無人で作業を行い、障害物も検知 |
農業用アシストスーツ | 農作業者が装着することで、腰の負担を軽減 |
テクノロジーの導入により経験の浅い農業従事者でも、従来より効率的に高品質な作物の生産が可能です。農業の高齢化による後継者不足の解消に活かされます。
代替食品の開発・生産分野
フードテックが開発を進める代替食品・新食品分野は、持続可能な食料供給を目指す重要な役割を担っています。代替食品・新食品分野で進められている取り組みを、以下の表にまとめました。
テクノロジー | 概要 |
---|---|
代替肉 | 植物性タンパク質で肉の味・食感を再現(大豆ミートやグルテンミートなど) |
培養肉 | 動物の細胞を培養することによる肉の生産 |
昆虫食 | 栄養価が高い、持続可能なタンパク質源(コオロギパウダー製品など) |
ゲノム編集技術 | 気候や環境に強い作物の開発 |
水耕栽培 | 土を使わずに作物生産 |
代替食品の開発・生産分野は、環境保護や食料補充のために今後もさらなる技術革新が期待されています。
調理技術分野
フードテックにおける調理技術分野では、最新のテクノロジーを用いて調理方法や作業の効率化が進んでいます。具体的な取り組み例は、以下のとおりです。
テクノロジー | 概要 |
---|---|
分子ガストロノミー | 食材を分子レベルで研究し、化学的に新しい味や食感を生み出す学問分野 |
調理ロボットやスマートキッチン | 自動化技術で調理作業を効率化 |
3Dフードプリンター | 食品のデータを基に、野菜の粉末などで食べられる食品の立体的コピーの生産 |
調理技術の革新は効率化や人手不足の解消だけでなく、新たな食文化の創造にも寄与しており、未来の食卓に多様な可能性をもたらします。
外食分野
外食分野におけるフードテックの活用は、主に業務の効率化や人手不足の解消を目的としています。先進的なテクノロジーを活用した効率化などの取り組みを、以下の表にまとめました。
テクノロジー | 概要 |
---|---|
調理ロボット・配膳ロボット | 調理品質の一定化と、調理と配膳の自動化 |
モバイルオーダー・キャッシュレス決済 | 調理ロボット・配膳ロボット |
フードデリバリーサービス | 実店舗がないゴーストレストランの運営 |
フードテックの活用例
具体的なフードテックの活用例を紹介します。
- 【農業分野】ヤンマーホールディングス株式会社:IoT栽培ハウス「スマートグリーンハウス」
- 【代替食品の開発・生産分野】ダイバースファーム株式会社:培養肉
- 【代替食品の開発・生産分野】カゴメ株式会社×2foods:代替卵「エバーエッグ」
- 【調理技術分野】TechMagic株式会社:炒め調理ロボット「I-Robo」
- 【外食分野】Pudu Robotics:配膳ロボット「BellaBot」
フードテックが実際にどう活用されているのかを知り、アイディアやインスピレーションを得ましょう。
【農業分野】ヤンマーホールディングス株式会社:IoT栽培ハウス「スマートグリーンハウス」
ヤンマーホールディングスの「スマートグリーンハウス」は、IT技術で管理された温室です。作物・品種ごとの「栽培レシピ」に基づき、温室内の温度・湿度・水やりなどの環境を自動制御します。カメラの画像から農作物の成熟度を測り、最適な出荷日を割り出すことも可能です。
自動制御と遠隔操作により、経験の浅い農業従事者でも高品質な作物栽培ができるのが特徴です。また、データの活用によって将来的な収益予測も立てやすく、生産者の負担軽減や収穫量の増加にも貢献します。
参考:ヤンマー「スマートグリーンハウス」
【代替食品の開発・生産分野】ダイバースファーム株式会社:培養肉
ダイバースファーム株式会社は、再生医療技術「ネットモールド法」で家畜の細胞から培養肉を作り出しています。ネットモールド法は細胞同士の接着性を利用して培養する手法で、より自然な細胞組織を作れることが特徴です。
遺伝子組み換えではないため安全で、一流の日本料理の食材などに活かされる点からも、品質の高さが伺えます。従来の畜産業で必要とされる水や土地の量を大幅に軽減し、持続可能な食料供給を目指しています。
参考:ダイバースファーム「培養肉」
【代替食品の開発・生産分野】カゴメ株式会社×2foods:代替卵「エバーエッグ」
カゴメ株式会社と2foodsが共同開発した「Ever Egg」は、人参と白いんげん豆を材料とした植物性の代替卵です。独自の野菜半熟化製法により、卵のようなふわとろ食感を実現しています。
ヴィーンや卵アレルギーを持つ人も食べられる他、コレステロールゼロのため健康志向の消費者にも適しています。また、加熱してもふわとろ食感が崩れないため、オムライスやスクランブルエッグなどさまざまな卵料理に手軽に利用できます。
参考:2foods ONLINE SHOP「エバーエッグ|たまごじゃないたまご」
【調理技術分野】TechMagic株式会社:炒め調理ロボット「I-Robo」
TECHMAGIC株式会社は、炒め調理ロボット「I-Robo」を開発しました。切った材料をI-Roboの鍋に投入し作動させると、鍋が洗濯機のように回転しながら具材を炒めます。具材を焼き付けるためにかき混ぜるヘラを停止させたり、火力と回転速度を一気に上げたりするなど調節することも可能です。制御機能により熟練シェフの技術を再現できます。
中華やイタリアンなど幅広いメニューに対応でき、それぞれの品質を一定に保てます。また、1時間に約30食の料理を時給換算333円で提供でき、自動洗浄機能も搭載されているなど、人件費削減にも効果的です。
参考:TechMagic「I-Robo | 調理ロボット」
【外食分野】Pudu Robotics:配膳ロボット「BellaBot」
「BellaBot」は、Pudu Robotics社が開発したネコ型配膳ロボットです。4段のトレーに最大40kgの料理を一度に運べます。また、SLAM技術や3Dセンサーにより、人や障害物を回避しながら安全な自律走行を実現しました。
ネコをモチーフにした愛らしいデザインとAI音声機能により、お客様との双方向的なやり取りも可能です。導入店舗の来店客満足度95%以上という結果も報告されており、多くの飲食店で導入が進んでいます。
参考: Pudu Robotics「製品」
フードテックが切り拓く未来の食産業には可能性が秘められている
フードテックはAI・IoT・バイオテクノロジーなど、食に関する課題を解決する最先端技術です。
世界的な気候変動などを受け食料不足が進んだことで、食の確保や安全性への関心が高まり、フードテックの重要性は増しています。人材不足の解決策としても有用です。
フードテックを利用しながら環境問題や飢餓問題を考えることで、一人ひとりが持続可能な食の未来に貢献できるでしょう。
この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。