マーケティングファネルという言葉を聞いたことがあるものの、具体的な内容やカスタマージャーニーとの違いなどを正しく理解できていないという方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事ではマーケティングファネルの概要やカスタマージャーニーとの違い、主な種類や活用方法などをまとめて解説します。
最後にマーケティングファネルに代わるフレームワークもご紹介しています。
マーケティングファネルとは?
マーケティングファネルの重要性
マーケティングファネルとカスタマージャーニーの違い
マーケティングファネルに含まれる基本的なプロセス
マーケティングファネルの種類
マーケティングファネルの活用方法
カスタマージャーニーマップを併用したマーケティングファネルの活用方法
マーケティングファネルは古いと言われる2つの理由
マーケティングファネルに代わる新たなフレームワーク
まとめ
マーケティングファネルとは?
マーケティングファネルとは、見込み顧客が製品・サービスを認知するところから、購買に至るまでのプロセスを段階ごとに分けて整理するフレームワークです。
そもそもファネルとは、漏斗(ろうと・じょうご)のことを意味します。
認知から購買にかけて徐々に見込み顧客の数が絞られていくことを図で表した際、漏斗のように逆三角形になることから、マーケティングファネルと呼ばれているのです。
マーケティングファネルを活用して現状を分析することで、見込み顧客の購買プロセスにおいて、どこに課題があるのかを把握することが可能です。
サミュエル・ローランド・ホール氏が提唱した顧客の購買行動モデル「AIDMA(アイドマ)」を基にして、開発されたと言われています。Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の略です。
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マーケティングファネルの重要性
マーケティングファネルの図で表したように、見込み顧客が製品・サービスを購買するまでには、複数のプロセスを辿ります。
購買プロセスによって、見込み顧客の必要とする情報やニーズは異なるため、企業は各プロセスに最適化された施策を展開しなければなりません。
マーケティング施策を最適化するには、実際のマーケティング活動を通じて得られた成果をマーケティングファネルに当てはめながら分析することが必要です。どのプロセス上に課題があるのかを見極め、精度の高い改善に繋げます。
このようにマーケティング活動の現状を把握し、改善点を探る上で、マーケティングファネルは重要な役割を果たすと言えるでしょう。
マーケティングファネルとカスタマージャーニーの違い
マーケティングファネルと同じく顧客の購買プロセスを示すカスタマージャーニーとの違いとしては、活用の目的が挙げられます。
マーケティングファネルが各プロセスでの顧客数を割り出すのに対して、カスタマージャーニーは各プロセスごとに見込み顧客が考えていることや抱いているニーズを割り出します。
そのため、顧客ニーズを踏まえた施策目標、提供すべき情報やタッチポイントなどを打ち出したい場合はカスタマージャーニーを活用するとよいでしょう。マーケティングファネルは購買プロセスの全体像をつかむのに適しています。
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マーケティングファネルに含まれる基本的なプロセス
マーケティングファネルの基本的なプロセスとしては、「認知」「興味関心」「比較検討」「購買」の4つが挙げられます。
各プロセス | プロセスでの状態や行動 |
---|---|
認知プロセス | 製品・サービスのことを認知する |
興味関心プロセス | 特定の製品・サービスに対して興味や関心を抱き、より詳細な情報収集を行う |
比較検討プロセス | 複数の製品・サービスの内容を比較検討し、自身にとって最適と思われるものを選定する |
購買プロセス | 最適であると判断した製品・サービスを実際に購入する |
1920年代に提唱されたAIDMA(アイドマ)が基になっています。AIDMAとマーケティングファネルを照らし合わせると、認知=Attention(注意)、興味関心=Interest(興味)・Desire(欲求)、比較検討=Memory(記憶)、購買=Action(行動)とプロセスに共通点が見られます。
マーケティングファネルの種類
ここからはマーケティングファネルの種類についてご紹介します。
パーチェスファネル
パーチェスファネルは、最も基本的なマーケティングファネルであり、先に挙げた4つの基本プロセスによって構成されます。
自社製品・サービスを認知した見込み顧客が興味関心、比較検討を経るにつれて、徐々に減少していく状況を図示しています。ステップを可視化することで離脱が起こっている箇所を分析できます。
認知から購買に至るまで一定期間を費やし、徐々に進んでいくカスタマージャーニー型消費行動が多いBtoB領域において、活用しやすいマーケティングファネルです。
逆にパルス型消費行動(スマートフォンやSNSを利用中に広告などが目に入り、突発的に購買を行う消費行動)が多いBtoC領域の製品・サービスには、適さないケースがあります。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、購買後の見込み顧客の行動を図示したマーケティングファネルで、SNSやインターネットの発達に伴い生まれました。
顧客は購買後、製品・サービスが気に入ればリピートします。
さらにリピート利用を通じて友人や知人に製品・サービスを勧めるようになり、最終的にはSNSなどを通じてポジティブな口コミなどを投稿するようになります。
この一連の流れを表したものがインフルエンスファネルです。
インフルエンスファネルを活用することで、製品・サービスへの満足度やロイヤルティ(愛着度)などを分析できます。
継続利用を前提としたサブスクリプション型の製品・サービスなどを展開している場合に、有効なマーケティングファネルと言えるでしょう。
ダブルファネル
ダブルファネルは、先に挙げたパーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたものです。
ダブルファネルでは、新規顧客の獲得から既存顧客向けの施策に至るまで、マーケティングプロセス全体を俯瞰しながら分析できます。
ダブルファネルにおいては、各プロセスを4つのフェーズに分けることで、より具体的な活動と紐づけて考える手法が確立されています。
プロモーションフェーズは、パーチェスファネルの「認知」「興味関心」に当たります。潜在顧客に対して広告やコンテンツ提供などを通じてアプローチし、認知してもらうフェーズです。
アクイジションフェーズは、パーチェスファネルの「比較検討」「購買」に当たる部分です。新規顧客獲得に向けてアプローチする段階であり、ターゲットリスト作成やメルマガ配信、製品資料や導入事例などの提供を行います。
リテンションフェーズは、インフルエンスファネルの「継続」「紹介」に当たる部分です。リピート促進やアップセル(より価格の高い製品・サービスの購買促進)、クロスセル(関連製品・サービスなどの購買促進)などにより、既存顧客に対してフォローアップしていく段階です。
最後のインフルエンスフェーズは、インフルエンスファネルの「発信」に当たる部分です。ファン化した顧客が自社製品・サービスをSNSなどを通じて発信することで、さらに顧客層が広がります。
マーケティングファネルの活用方法
次にマーケティングファネルの活用方法についてご紹介します。
パーチェスファネルの場合
パーチェスファネルは、見込み顧客数の推移を把握することで、どのプロセスに課題があるのか当たりを付けるために活用されます。
様々なデータを活用し、パーチェスファネルの各プロセスにおいてどれくらいの見込み顧客がいるのかを推定し、プロセス間の遷移率を出します。
例:パーチェスファネルと見込み顧客の推移
例えば上記の例を見ると、認知から興味関心までは比較的スムーズに進んでいますが、興味関心から比較検討に進む際に、多くの見込み顧客が離脱していることがわかります。
この場合は興味関心プロセスの見込み顧客に対して、「提供している情報に不足はないか」「製品・サービスの価値はしっかりと伝えられているか」といった点を確認していくとよいでしょう。
マーケティングファネルで課題に当たりを付けることで、効率の良い改善活動に繋げることができるのです。
インフルエンスファネルの場合
インフルエンスファネルを活用することで、購買後の顧客に対して適切なアプローチができているのかを検証できます。
例えば購買した後にリピートしてくれる顧客が極端に少ない場合、購買後の体験に問題がある可能性が浮上します。
そこでリピートしてくれた顧客は勿論、リピートしなかった顧客に対してヒアリングなどの調査を実施するのが一つの方法です。
その調査によって、「製品・サービス自体に問題があったのか」「購買後のフォローが足りていなかったのか」といった問題点を抽出できます。
これらの問題点を改善していくことで、リピートを増やし、紹介や発信プロセスへの遷移を促していくのです。
顧客が自然にファンになってくれるのを待つのではなく、インフルエンスファネルを用いた分析を行うことによって、購買後のアプローチを最適化し、ファン化促進の施策を考えることができます。
カスタマージャーニーマップを併用したマーケティングファネルの活用方法
マーケティングファネルによる分析では、主に各購買プロセスにおける顧客の数を推定し、どのプロセスに課題があるのかを確認します。
しかし課題があるプロセスがわかっても、マーケティングファネルだけでは具体的な改善策までは導くことができません。そこで役に立つのがカスタマージャーニーマップです。
例えばマーケティングファネルで分析した結果、比較検討から購買に至る際に見込み顧客が大きく離脱していることが発覚したとしましょう。
そこでカスタマージャーニーマップを作成し、比較検討プロセスにおけるアプローチを整理してみると、営業による電話フォローや商談しか行っていないことが判明します。
その内容を踏まえ、製品・サービスの導入事例コンテンツや、導入におけるFAQコンテンツを作成するといった打ち手を考えていくのです。
このようにマーケティングファネルで課題のあるプロセスに当たりを付けたあと、より詳細な状況についてはカスタマージャーニーで把握していきます。組み合わせて活用することでより精度の高い課題設定が可能になるのです。
マーケティングファネルは古いと言われる2つの理由
マーケティングファネルは役立つ分析フレームワークですが、今では時代遅れで古いといった声も挙がっています。その理由としては以下の2点が挙げられるでしょう。
1. 消費行動が多様化した
マーケティングファネルの基になったAIDMAが生まれたのは1920年代であり、インターネットやSNSなどがない時代です。
当時、顧客の購買行動にそこまで差はなく、ほとんどの製品・サービスで「認知」「興味関心」「比較検討」「購買」というプロセスを踏んでいました。
しかしインターネットやSNSが発達した現代においては、こうした認知から感情が生まれて購買に至るといった段階を経るカスタマージャーニー型消費行動だけでなく、衝動的なパルス型消費行動も現れるなど、消費行動が多様化しています。
これらの消費行動の多様化に対し、マーケティングファネルは対応しきれておらず、古いと評価する人も出てきたのです。
2. 購買後の体験が認識できない
最も基本的なマーケティングファネルの形であるパーチェスファネルは、購買後のプロセスまでは整理できません。
昨今、新規顧客獲得は勿論、既存顧客に対してのアプローチを最適化し、LTV(顧客生涯価値:顧客が将来にわたって企業にもたらす価値・売上)を最大化させることが、多くの企業にとって課題となっています。
そういった状況においては、購買後のプロセスも含めて、マーケティング活動を考えていかなければなりません。
しかしパーチェスファネルは購買後のプロセスに対応できておらず、時代遅れで古いという印象を抱かれるケースがあるのです。
BtoB領域ではまだまだ役に立つ
とはいえ、マーケティングファネルはある程度現代のビジネスでも活用できます。
特にBtoB領域に多く見られるカスタマージャーニー型消費行動については、過不足なく整理でき、効果的なマーケティング施策の立案や改善活動に繋げられるでしょう。
購入後のプロセスについても、パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたダブルファネルで分析できます。
そのため「古いから使わない」と切り捨てるのではなく、自社の製品・サービスのタイプや特徴などと照らし合わせて、活用するかどうか判断することが重要になるのです。
マーケティングファネルに代わる新たなフレームワーク
引用:フライホイールモデル | HubSpot(ハブスポット)
最後にマーケティングファネルに代わる新たなフレームワークとして、フライホイールをご紹介します。
フライホイールは、マーケティングオートメーション「Marketing Hub」などのツールを提供するHubSpot社が提唱したフレームワークです。
フライホイールモデルは見込み顧客に対して行うアプローチを、以下の3つの段階に分けて整理しています。
段階 | アプローチ |
---|---|
Attract | 有益なコンテンツの提供を通じて、見込み顧客の興味関心を引きつける <施策例> コンテンツマーケティング、SEO、ソーシャルメディアマーケティング |
Engage | 適切なコミュニケーションを通じて、顧客との関係性を築く <施策例> リードナーチャリングやスコアリング、お試し版の提供 |
Delight | 顧客の目的達成を支援し、ファン化の促進を行う <施策例> カスタマーサービスでの対応やロイヤルティプログラムの提供 |
フライホイールは、顧客を「マーケティング活動の結果」として捉えるのではなく、「自社成長のための推力」であるという考えに基づいて作られています。
この3つの段階において顧客体験価値を高め、顧客がファン化することで、顧客をビジネスの成長の原動力として活用できるとしているのです。
フライホイールは、顧客との関係性を軸にダブルファネルをまとめあげたものといえます。購買プロセスと顧客アプローチを組み合わせた新しい形で、インターネット上の売買が進む時代において今後も活かされていくでしょう。
まとめ
今回はマーケティングファネルについて、概要や重要性、種類や活用方法などをまとめて解説してきましたが、いかがでしたか。
時代が進むにつれて消費者の行動は多様化し、パルス型消費行動など、マーケティングファネルで整理できない消費者行動も生まれています。
しかし購買検討期間が長く、購買に至るまでに様々な情報を収集するBtoB領域においては、マーケティングファネルは今でも有効な分析フレームワークとして活用できます。
この記事を参考に、マーケティングファネルを上手く活用していただければ幸いです。
この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。