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米大統領選のマーケティング戦略とは?

米大統領選ではどのようなマーケティング戦略が使われている?インフルエンサーやAIを活用した手法を解説!


山﨑伊代

Nov 11, 2024

米大統領選は、全世界が注目する4年に一度の大規模な選挙です。約1年という長期戦の中で、候補者がいかに効果的に有権者の共感を得られるかが勝敗を大きく左右します。そのため、資金やメディア、デジタル技術などあらゆるものを駆使して候補者を売り込むことになり、米大統領選はいわば巨大なマーケティングプロジェクトとも言えるでしょう。

本記事では、米大統領選におけるマーケティング戦略と成功事例をまとめました。この記事を読めば、米大統領選におけるマーケティングの重要性や、現代の政治におけるAI・ビッグデータの活用による影響を理解できます。

選挙戦略の変化を理解し、民間のマーケティングや広報活動において、どのように新しい手法を取り入れるべきか考えてみましょう。

米大統領選は大きな資金が動く「巨大マーケティングプロジェクト」

米大統領選は大きな資金が動く「巨大マーケティングプロジェクト」


米国大統領選挙では巨額の資金が動きます。2020年の選挙では、それまでの選挙で最高額となる総額約144億ドルが投じられたと推測されています。大半の用途はメディア広告で、候補者のプロモーションのみならず、対立候補へのネガティブキャンペーンにも費やされました。

ただし、巨額の資金もマーケティング戦略を間違えれば効果を発揮しません。マーケティング戦略は政策やメッセージを効果的に広めるだけでなく、ターゲット層への的確なアプローチが求められます。2024年の選挙でも、多くの新しいマーケティング技術が活用され、結果に大きな影響を与えると予想されます。

参考:OpenSecrets「Most expensive ever: 2020 election cost $14.4 billion

なぜ米大統領選でマーケティングが必要なのか

米国の大統領選挙におけるマーケティングは、ビジネスにおける商品と同様に候補者を広報するための重要な役割を果たします。

選挙キャンペーンのマーケティングは、情報収集と対話を通じて有権者の声を分析し、選挙運動に活かすことです。米国の有権者が支持する政党は、2024年7月時点で28%が民主党、30%が共和党、そして41%が無党派層です。無党派層をいかに動かすかがカギとなるため、無党派層を徹底的にプロファイリングし、適切に政策をアピールする必要があります。

参考:日本経済新聞「米国の無党派層とは」

米大統領選と広告

テレビ・ラジオ・インターネットなどの広告は、米大統領選挙において極めて重要な役割を果たしています。2020年の選挙では、テレビでの政策アピールや選挙コンサルタントなどを含む広告関連に資金の約56%が使われたと推測されています。

とくに、インターネットを通じたデジタル広告の使用が増えています。2020年では、2018年と比べて全米でのデジタルメディアの利用時間が24%増加しました。コロナ禍で選挙演説が制限されたことも影響し、デジタルメディアの重要性が高まったとみられます。

参考:朝日新聞GLOBE+2020 Political Digital Advertising Report

米大統領選で活用されたマーケティング事例

米大統領選で活用されたマーケティング事例の一例は、以下のとおりです。

  • 2008年オバマ陣営によるスローガンとSNSの活用
  • 2016年トランプ陣営によるポジショニングとSNSの活用

米大統領選とマーケティングの関係を理解し、どのような手法が一般の消費者に有効なのかを確認しましょう。

米大統領選で活用されたマーケティング事例

2008年オバマ陣営によるスローガンとSNSの活用

2008年の米大統領選挙では、オバマ陣営のマーケティング戦略の革新性が際立っていました。オバマ陣営は「Yes We Can」「Change」というシンプルなスローガンを掲げ、デジタルメディアを駆使して広く有権者の支持を集めました。

とくに、注目すべきはYouTubeやFacebookといったSNSを活用した情報発信です。インターネット上で多数の動画を公開し、テレビ広告だけではリーチできない層に効果的にメッセージを届けました。

その結果、もっとも権威ある米マーケティング専門紙「Advertising Age」のマーケティング賞「Marketer of the Year」に選ばれる快挙を成し遂げました。政治キャンペーンが商業マーケティングと同等に評価されるのはかなり異例です。2008年のオバマ陣営のキャンペーンは、現代政治におけるマーケティングの重要性を強く示すものでした。

2016年トランプ陣営によるポジショニングとSNSの活用

2016年の米大統領選挙では、トランプ陣営による明確なポジショニング戦略が勝利のカギとなりました。トランプ氏は「成功したビジネスマン」「新しいリーダー」という自己像を打ち出し、既存の政治家との差別化を図ったのです。また、「(米国の政治が行われている)ワシントンの腐敗を打破する」というメッセージを掲げ、多くの有権者に「変革」を訴えかけました。

トランプ陣営はSNS、とくにXを積極的に活用し、有権者との直接的なコミュニケーションを行いました。マスメディアを介さずにSNSを活用して自身のメッセージを迅速に伝え、支持者との強い絆を築き上げたのです。また、データ分析を活用し、ターゲット層ごとに的確なメッセージを届ける戦略も功を奏しました。

トランプ氏が大方の予想を覆し大統領に選ばれたのは、トランプ陣営の戦略的なマーケティングが大きく影響したと考えられます。

参考:wisdom「米大統領選のトランプ氏勝利に学ぶ、「ポスト真実」の時代を生き抜く力


米大統領選は著名人やインフルエンサーの影響も大きい


米大統領選では、著名人やインフルエンサーも選挙活動において重要な役割を担っています。候補者のメッセージを、より共感しやすい形で人々に発信できることが特徴です。

以下に、実際に大統領選で著名人やインフルエンサーとどのようにコラボレーションしているのか、いくつかの事例を紹介します。

  • インフルエンサーを起用
  • 党大会に著名人を招待
  • SNSでの著名人からの支持表明


インフルエンサーを起用

インフルエンサーとは、ソーシャルメディアで一定のフォロワー数を抱え、影響力を持つ人のことです。米大統領選挙において、インフルエンサーの活用はとくに若年層への影響力を高めるために重要な戦略となっています。

たとえば、2020年の米大統領選でバイデン陣営はSNSでインフルエンサーを通じて政策を発信しました。若者に親しみやすい形式で情報を提供したため、従来の政治活動では届きにくい層にメッセージが伝わりました。

ジャンルの異なる幅広いインフルエンサーを起用することで、政党のメッセージはより説得力のあるものになります。インフルエンサーには報酬以外にホワイトハウスに招待するなど、待遇にも力を入れています。

党大会に著名人を招待

米大統領選挙では、党大会に著名人を招待するケースがよく見られます。2008年の民主党全国大会でバラク・オバマ氏が大統領候補指名を受けたときに、以下の著名人が参加しました。

  • ジェニファー・ロペス
  • ベン・アフレック
  • ジェニファー・ガーナー

また、カニエ・ウェストがオバマ氏のパーティーでパフォーマンスを行うなど、イベントに華を添えました。

2024年の民主党全国大会でも、以下のように多くの著名人が登場しました。

  • スティービー・ワンダー
  • ショーン・アスティン
  • ジョン・レジェンド

民主党全国大会に登場した著名人は候補者への支持を表明し、選挙キャンペーンの注目度を高めました。著名人の参加は、とくに若者層や音楽ファンなど特定の層に対する訴求力を高める要因となります。

SNSでの著名人からの支持表明

2020年の米大統領選挙では、人気歌手のテイラー・スウィフトさんがバイデン氏への支持を表明し、大きな話題となりました。テイラー・スウィフトさんのSNSのメッセージは、米国内の膨大なフォロワーにリーチし、若者層やファンの政治参加を促進する力となったのです。

著名人による支持表明は単なる宣伝活動を超えて候補者のイメージを強化し、有権者との感情的なつながりを築く重要な手段だといえます。

近年では米大統領選でAIも活用されている

近年、米大統領選でAIが活用されている点について解説します。

  • 選挙予測に活用された例
  • AIの活用による懸念の声も

進歩の著しいAIがこれからどのように影響を与えるのか、事例や懸念の声を参考に注視しましょう。

近年では米大統領選でAIも活用されている

選挙予測に活用された例

世論調査やソーシャルメディア上の意見をリアルタイムで分析し、各州での支持率を予測します。分析結果により候補者は迅速に選挙戦略を調整できるようになり、効率的なリソースの配分が可能となったのです。

また、具体的な戦略もAIが提示できるようになりました。対戦相手の今後の動きもAIに予測してもらえるため、より緻密な戦略が立てられます。人が持つ柔軟な思考と併せて活用することが大切です。

AIの活用による懸念の声も

AIの活用は選挙キャンペーンの効率化に寄与する一方で、懸念の声も上がっています。

一例としては、AIが有権者のプライバシーを侵害する可能性がある点です。選挙活動においてAIは膨大な個人データを収集・解析するため、個人のデータが過度に利用されるリスクが存在します。

また、AIによるフェイクニュースの拡散や情報操作の可能性も問題点です。2024年の選挙戦において、候補者のトランプ氏がテイラー・スウィフトさんの支持を得たかのように見せる偽画像をSNSに投稿したことも話題となりました。悪意のあるグループがAIを使って偽情報を生成し、選挙結果に影響を与えるリスクが懸念されています。

米大統領選のマーケティング戦略から学ぼう

米大統領選は巨大なマーケティングプロジェクトとして、資金調達からターゲット層への広告戦略まで幅広く展開されます。

広告戦略としては、SNS活用やポジショニングなど、幅広い層を惹きつける手法が展開されてきました。また、近年ではインフルエンサーやAIも積極的に活用され、若年層や無党派層への効果が顕著です。

ほかにも、AIは選挙活動の精度を高めるためのツールとして、有権者の行動分析や適切な戦略などに活用されています。米大統領選のマーケティング戦略から学びを得て、ビッグデータの分析によりターゲットにアピールする方法を考えてみるのもよいかもしれません。

この記事の監修者:

山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)

大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。

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